中学男子が人のほっぺたふにふにしてても大丈夫でしたらどうぞ。ちなみに過去話です。
手の平を閉じたり、開いたり。
何やってんのアイツ。

大福とバカと思春期と

「なー和弘、何やってんの?」
ちらちらと目に付くので、聞いてみる。和弘は俺を見ず、自らの手の平を見つめたまま、答えた。
「いや、何か……手が淋しくて。」
「は? 手が?」
「うん。」
口淋しいってあるでしょ。それの手バージョン、っていうか。
和弘は小さく息をつきながら言った。
「ふぅん、変なの。」
「何だろ、何か落ち着かないんだよね。」
しばらく開いたり閉じたりを繰り返していた和弘は、やがて思いついたように俺を見た。
「ねぇ、市羽目。」
「? 何?」
「ちょっとほっぺ貸して。」
? ほっぺ? 何ソレ?
尋ねる間もなく掴まれる。もちろん、ほっぺたを。
「ひょ、ひゃにすんひゃよ!」
「ふにふにふにー」
女子みたいなことすんなぁ、と一瞬思ったけれど、女子は無表情で人のほっぺたふにふにしたりはしないだろう。ちょっと不気味なんだけど。
「何かあれだね、市羽目のほっぺたって……えーっと……何だろ」
「思いついてひゃらひえよ!」
「だって形容しがたいんだよ、市羽目のほっぺって。何だろ、何だーコレ……」
ふにふにする指のスピードが速くなる。ちょ、いたいいたいいたいって。
「ちょ、虎ひゃすけて!」
窓に寄りかかって本を読んでいた虎に助けを求める。虎は読んでいた本から俺と和弘に目を移すと、面倒そうに顔をしかめた。
「何してんだ、てめぇら。」
「いや、何か手が淋しかったから。」
「だからって人のほっぺた揉むヤツがあるか。」
「そーだよ、ひってひゃってよ虎。」
「あーでも市羽目か、市羽目なら特に問題はねえな。」
「ひゃんで!?」
ったく。小さく舌打ちして、虎は本にしおりを挟んだ。そのまま近くの机にポイッと投げて、俺達のすぐそばまでよってくる。本大事にしてんのかしてないのかよく分かんないなコイツ。
「輪払ぃ、コイツのほっぺた何かに似てるんだけど、なんだと思う?」
「いや、んなこと言われても……」
虎は空いている方のほっぺたを乱暴に掴んだ。
「ふひゃっ!雑ひゃなあ!!」
「あー、確かに触った覚えあんな、この感じ……でも何だぁ?これ。」
ぐにーーー、と、虎は思い切り俺の頬を引っ張った。
「いひゃいいひゃい!いひゃいって!!」
「うっせえてめぇちょっと黙ってろ。もう少しで思い出せそうな気がすんだよ。」
「うーん…引っかかってはいるんだけどな……」
二人とも目が段々と真剣になってきた。え、何この展開。何で中学生男子二人が人のほっぺた真剣にふにふにしてんの?シュールすぎね?俺いたたまれないんだけど。
「ひゃのー……ひょろひょろひゃなしてひゅんひゃい?」
「もう、少し静かにしてよ市羽目」
「ここで引き下がったら何か負けな気がする」
「ひゃににだよ!?」
和弘は指をくちびるに当てて考え込んでいる。虎はふにふにしてない方の手でがしがしと頭を掻いている。いやそんなに悩むことじゃないよね!?もうなんだっていいじゃん!!
「うーん、分かった気が、する。」
「俺も、何となく……」
二人はためらいがちに口を開いた。
「で?ひゃっひょくひゃに?」
俺が呆れを含んで返すと、二人は同時に手を放した。
「「大福的な何か」」
「あいまいだな!!」


「……兄さーん、いる?」
ドアの外から声をかけると、しばらくしてからドアが開いた。
「何か用か、悠。」
兄さんはアイスブルーのカーディガンに濃いめのベージュのズボンを合わせていた。これが似合うんだもんな、うらやましいなあ……
「あ、いや、たいしたことじゃあないんだけど……」
「何でもいいから早く言ってくれるか?」
「あ、ごめん。あの、さ……」
俺は覚悟を決めた。
「俺のほっぺたってさぁ、何の感触に似てんの?」
「____は?」
ものすごくいぶかしそうな目で兄さんは俺を見つめた。ですよねー。
「あーえーっと、その、理由は話すと長くなるけど」
「だったらいい。」
……相変わらず冷たいなあ。
兄さんは無言で俺のほっぺたを掴んだ。ふにふにふにふに。
結構長い間、兄さんは俺のほっぺたをふにふにしていた。冷めた顔のまま。しかも俺と兄さんの身長差は相当なものだ。見下ろされてる感がハンパ無い。一言で言うとむっちゃ怖い。
「___ああ、分かった気がする。」
ぱ、と兄さんは俺から手を放した。少しだけ緊張しつつ、俺は尋ねる。
「えーっとその、何に、似てましたかね……?」
兄さんは軽く首を傾けて、どうでも良さそうに答えた。
「女の胸だな」
「うっそおおおお!!!」
予想外すぎて俺は絶叫した。え、って事はあいつら触ったことあんのか、ちょっと待ってそれずるい、ああそうですよねモテますもんねー!!
両頬に両手を当てて混乱していると、頭上から意外な声が降ってきた。
「ぶっは、」
「え?」
今、笑っ、た?
見上げると、兄さんは片手を口に当てて笑っていた。久々だ、兄さんが笑っているのを見るのは。
「そんな訳がないだろう?思春期だな。」
「うぇっ?」
「バカだろう、お前。」
あっはは、と楽しそうに笑うと、兄はさっさと部屋に戻ってしまった。扉が閉まる。
何だよ、笑うことないじゃんか。
そう呟いたものの、俺はちょっぴり嬉しくなった。

「強いて言うなら……二の腕、か?」
感触を思い出しつつ、柳は手の平を見つめた。
バカやってる男子学生が好きです。兄弟も。

2010/09/25:ソヨゴ
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