頭が割れるように痛い。
「___っていうか、」
実際割れてんじゃないかな。

仲良しこよし

「目、覚めた?市羽目。」
ぼやけた視界を切り裂くようにはっきり聞こえたその声の主は、よく知るうつろな目のアイツだった。
「和……弘……?」
「そうだよ。不意打ちなんかして、悪かったね。」
ようやく、俺の目は和弘を捉えた。
「全くだよ。いきなり背後から殴られたと思ったら」
和弘か。
俺は小さく呟いた。どうやら、縛られているらしい。身動きが取れない。
「___何で連れてきたんだよ、和弘。」
チッ、と大きな舌打ちが響く。
腕を組み、イライラした様子で壁に寄りかかるアイツの姿が、目に映った。
「___虎。」
「うるせぇ市羽目。馴れ馴れしく呼ぶんじゃねぇよテロ野郎。」
けっ、とでも言いたげに虎は顔をしかめた。
「ねぇダーリン、そいつどうするつもりなの?」
和弘に負けず劣らず無表情な少女が、和弘を覗き込んで言った。
「う〜ん…とりあえず、話でも聞こうかと思って連れてきたんだけど。」
「話?」
「言い訳、さ。」
和弘はそう言って、右手に持ってたモップをぐるりと一回転。
そしてヘッドをトン、と肩に置いた。
「___言い訳だって?」
俺は笑ってしまいそうになった。
「俺が何を言い訳するっていうのさ。和弘も虎も日本人、敵国者、それだけ。だから俺は君らを殺すだ」
「け」、が言えなかった。
がんっ
漫画みたいな音、先程も経験した目眩、少し遅れて、鈍く強烈な痛み。
「……あんまり調子乗らないで、市羽目。」
和弘は振り下ろしたモップを再び肩に戻した。
___今の、片腕?。
「僕は市羽目を生かしておいてること自体、ちょっと微妙かなって思ってるんだよ。勘違いしているようなら殺すよ。ただ、親友____元親友として、」
和弘はそこでため息をついた。
「本当の想いも気持ちも聞かずに殺すのが、ちょっと嫌な感じだって、だけなんだから。」
たったそれだけ、と和弘は続けた。
「へぇ、君は少し冷淡だねー美少年。」
「そうですかね?」
「あなたは…」
特上級、じゃないか。
こんな人まで味方にしてるなんて………コイツ。
「さすが年上キラー」 「何か言った?」
「いーや、別に。」
特上級がプッ、と吹き出した。
「確かにねー、私は少年にメロメロだよー。」
「和弘は渡しませんよ、先輩。」
さっきの少女が、和弘の腕に抱きついた。
「みーかーげ、やめてよ、市羽目が殴りにくい。」
「私が代わりに殴ってあげるわ。」 「手加減する気ないでしょ。」
先程からの物騒な会話はあえてスルーするとして、ミカゲ……アマギミカゲか?要注意人物の?
じゃあ、もう片方の少年ってもしかして___
「……和弘、お前いつの間にそんな」
人殺しに。
その言葉は飲み込む。
すると少しの間のあと、はっ、と虎が笑った。
「てめぇ、分かってなかったのかよ?和弘がどんなヤツかなんて、その目見りゃ、分かんだろ。」
「「目?」」
俺と和弘は同時に言った。
「虚ろなくせにギラギラしてやがる、その目だよ。その目は何を見てる?どこを見てる?答えは一つ____コイツも、甘木と同じだ。」
だん、と片足で壁を蹴り、虎は体勢を整えた。
「常にどうやって殺すかしか考えてねぇんだよコイツは。」
虎は俺から和弘に目を移して言った。
「____あー、思い返してみれば、確かに。」
ちょっと眺めの沈黙のあと、大した感慨もなく和弘は言った。
「……他人どころか自分にも興味ねぇのか、てめぇは。」
虎が諦めたような苦笑を浮かべる。
そういうことか、と俺はようやく納得した。
だからこそ和弘は他人への態度を変えない。相手が、物質だからなんだ。
俺とはまた違う理由だな。
やがて和弘が俺に再び向き直り、言った。
「悠はさ、どう思ってるんだよ。」
___泣きたくなった。和弘のその言葉に。
和弘が気付いているかどうかは知らないが、和弘の呼び方には特徴がある。
1、ただの知り合いは名字呼び捨て。
2、少し関わりの深い人は名前呼び捨て。
3、親友とも呼べるような仲の深い人、これは名字に戻る。
そして、これは憶測でしかないが____4、何でも言える、と思えるほどに信用している相手は、名前呼び捨て。
俺なりの解釈。1や2は普通の人だってそうだろう。じゃあ3は?何故親しくなると名字呼びに戻るのか? 俺の考えはこうだ____自分を、侵略されない為。
2の人達を名前で呼ぶのは、和弘が2の人達に心を見せるつもりが無いからだ。心を許す気がない。だから名前で呼んでても、一定の距離が保てる。
では3の人達___俺は、俺自身と虎以外知らないけど____はどうだ?
多分、もう心を見せてしまった人達なんだ。
もう心を半分、もしくは半分以上許してしまってる。だから、下手をすれば____自分の心を掌握されかねない。そう思ってるんじゃないだろうか?
和弘は、自分の心の中に誰かが入ってくるのを嫌がる。踏み入って欲しくないのだ。だから名字で呼ぶのは、小さな、はっきりとした、和弘からの拒絶。
「僕が自分から心を見せるんだったらいいけど、君たちからは入ってこないで。」
和弘はそう言いたいんだろう。
あー、虎は分かりやすくていいのに。アイツはただ単純に、俺が嫌いなだけだ。まあ、アイツに俺と和弘以外の友達がいるのかどうか、怪しいところなんだけど………
「___失敗したな。」
「は?」
「俺は、多分ターゲットを間違えたんだね。」
あきらめとともに俺が言葉を吐き出すと、和弘は怪訝そうな顔をした。
「何の話。」
「俺は、日本人と関わりを持つ為に、君らと仲良くなろうと思ったんだ。祖国の為に。祖国の勝利の、為に。」 「___やっぱりね。」
「………でも、ね。」
はあ、俺はなんて、愚かなんだろう。
「いつの間にか、君らといるのが普通に楽しくなってた。毎日毎日、休み時間が待ち遠しくなってた。今日はどんなことが起こるだろう、どんな話出来るだろう、どんなこと一緒にしよう………まるで本当の、友達みたいに。」
そう言うと、虎は刺々しい声を出した。
「っざけんじゃねぇ。どっち付かずなんだよてめぇは、この優柔不断野郎。てめぇは一回、和弘を裏切ったんだろ。今更仲良くしたいですなんて、そうは問屋が下ろさねぇぜ。お前がこのままどっち付かずな態度で和弘を苦しめるってんなら、俺はてめぇを殺す。」
俺はお前が生きようが死のうが関係ねぇし。
虎はフン、と鼻を鳴らした。
「……僕は、市羽目が親友に戻りたいって言うならそれでもいい。」
やがて。ぽつり、と和弘は呟いた。
「おい和弘!!」
「でも、どっちか決めてよ、はっきり。僕らをとるか、国をとるか____それと輪払。」
「んだよ!!」
「本当は君だって、また市羽目とバカやりたいんでしょ。」
「______まあ、騒いでる分には、面白いヤツだし?まあ、まあ、な。」
虎はふいっと目を逸らした。それを見て和弘は少しだけ笑う。
「……僕最近よく思うんだけど、輪払ってツンデレだよね。」
「? ツンデレ?んだそりゃ。新種のとかげか?」
ってちょっと、知らないのかよ。
「とかげって何。」
「アマゾンスジナシツンデレ、みたいな。いそうじゃね?」
「あーいそういそう。でもとかげってより昆虫っぽいな。カマキリとか。」
「あ、それ有り得る。」
有り得ないっつの、と小さくツッコんで、こっそり思う。
………ったく、コイツらは。
お前らこそ、変わったんだか変わってないんだか、はっきりしろよ。
「___ま、それはと、も、か、く、」
和弘が静かに俺を見た。
「決まった?」
「え?ご、ごめん、まだ。」
「そう。じゃあ、ゆっくり決めていい。ただ」
和弘はモップを振り上げた。
「次襲ってきたら、殺すから。」

がんっ

____とにかく、今言えることは。
親友だろうが元親友だろうが、友達の頭を三回も鈍器で殴るようなヤツは、まともじゃないということだ。
やっと市羽目君メインのお話です。
実はこの話書いて初めて、市羽目君の口調が決まったりしましたww
まあブチこわきっての影薄キャラが今後どうなっていくのか、私自身が想像つかない状態です(笑)
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