本当、分かりやすいヤツだな。和弘はしみじみと思った。

「好き」が嫌いな君へ。

そりゃ、虎がいわゆる「手慣れてる」ヤツなことは確かだ。アイツは色んな人に「愛された」ワケで、その愛から逃げ出すために(俗っぽく言えばあしらう、ってなるんだろうけど)何というかテクというかそういうもんを身につけたのは、事実。
でも、アイツは人を好きになったことなんてない。
愛されることを恐れると同時に自らも人を愛することを避けてきた人間が、こいなんてものを知ってるはずもない。つまりはアイツは「色恋沙汰」には慣れてても「恋をする」ことはド素人な訳で。
ぶっちゃけ、誰のことが好きなのかなんてバレバレなのである。
にしても、ここにいるみんなは鈍感ぞろいだ。御影は僕しか見ていない(惚気じゃないから事実だから)、ノイ君はそもそも空気も読めない、ノユちゃんは薄々気付いてるだろうけど何もする気はないらしい。十緒美先輩は案外自分が関わってくることには気付かないらしい。大体、虎自身気付いてるのかどうか怪しいところだ。ま、僕は御影がいるんだし、あんまり関係ないけどさ。

「あ、ねーねー虎くん」
「うわあああ、あ、はい。」
「どーしたのそんな慌てちゃって。」
「あ、いや、ぼーっとしてたんで。何でしょうか?」
「んー?えーっとねーバッグの中に飴玉があるのを発見したんだけど、いる?」
うっは、笑っちゃうくらい真っ赤なんですけど。あれだけあからさまなのによく誰にも気付かれないよな。
「___虎くん。」
こつん。
「え、ちょっ、へ?」
「顔真っ赤だよー、熱とかあるんじゃない?」
「ひ、いえ、多分、平気、です。」
おもしれええええ単語で区切ってるよアイツ!
「そう?だったらいいんだけどさ。じゃあ飴あげるねー」
ごそごそとカバンの中を探る先輩。虎は嵐が過ぎたかのようにほっとしている。
「あ、コレコレ。ねえねえ虎くん、梅干し平気?」
「え……あ……食べられると思い、ます」
ウソつけー!梅干し苦手だろお前。あ、でもあの笑顔でいわれちゃ僕でも断れないや。
「はい、どーぞ。」
「ど、どうも……」
んじゃーちょっと出かけてくるね。
十緒美先輩は、そういい残して教室を出て行った。僕は御影に抱きつかれたまま虎を観察する。
あー見てる見てる。戸惑ってる戸惑ってる。手の平の上の飴玉を見つめて、虎は固まっていた。
あ、口に近づけた。あ、離した!意気地なし。
「ねー和弘」
「んー何ー」
渋い顔。でもそうだよな、確かアイツ吐き出す程度には梅干し嫌いだもん。
「何だかヒマだわ。」
「んなこと言われても。」
あ、見据えた。深呼吸してる。そんなに覚悟いんのかよ。
あ、食った!!
あーーーー我慢してる我慢してる。うっわすっごい勢いで噛み砕いてるな。シュレッダーかお前は。
そのまま無理矢理飲み込む虎。僕は、今にも吹き出しそうになるのを必死で堪えた。
構ってよーーーーと僕をがくがく揺らす御影をそのままにしていたら、十緒美先輩が帰ってきた。
「ふんふふふーん♪帰ったよー…あれ、虎くんもう食べちゃったの?」
「あ、はい。おいしかったです。」
「んふふ、じゃあ見つけたらまたあげるね。」
一瞬で虎は凍り付いた。それをよそに、十緒美先輩は知ってか知らずか鼻歌を歌っている。
数秒たって、やっと十緒美先輩は言った。
「ウソウソ、冗談だよ。虎くんその飴苦手でしょ?」
「あ…あの……分かっちゃいました?」
「うん、バレバレ。」
楽しそうに笑う先輩とは対照的に、虎は恐縮した様子で謝った。
「すいません、せっかくいただいたのに……」
「んー?いいっていいって、虎くんこそ、無理して食べてくれたんでしょー?」
そう言うと十緒美先輩はずいっと顔を虎に近づけ、にっこり笑った。
「優しいね!虎くんは。」
「___っ」
ま〜た面白いくらい真っ赤になった虎は、軽く俯いてそんなことないですと言った。十緒美先輩は満足げに笑って、教室の隅にいるノユちゃんの元へ去っていった。
ぐいぐいと僕の首筋に顔を埋めてくる御影はもう少し無視することにする。僕は虎を手招いた。
「? 何だよ。」
近づいてくる虎。僕は座ったままちょいちょい、と虎に耳を近づけさせた。
「___ねぇ虎、お前年上好き?」
小さな声でからかうと、虎は素早く飛び退いた。
「な、てめっ、なんでそんな」
「バーレバレだよ虎。お前ほんっと分かりやすいのな!!」
「……っ、うっせぇんだよこのバカップル!」
「へぇ〜ふぅーん、意外だなぁ、虎が先輩を、ねぇ。」
先輩がどうかした? 聞いてきた御影に、何でもないと返す。ガチで他人に興味ないなこの子は。
「………だって、よぉ」
「ん?」
「だって……人を好きになったことなんて、ねぇしよ。」
そうすりゃいいのかわかんねーんだよ。
虎はそう言ってしゃがみ込んだ。顔が真っ赤だ。いっつも斜に構えてるもんだから、こういうとこ見ると本当爆笑しそうになる。
「へぇ、僕はてっきり、虎は自分が先輩のこと好きだって気付いてな」
「わああああああお前近くにいるだろ!!」
「ぶっ、ああごめんごめん」
「吹き出しやがったなてめえ!」
「吹いてない吹いてない、アハハ。」
「このやろ……他人事だと思って……」
友達だと思ってたのに。
見上げながらぼそっと呟いてきた虎を見て、僕は晴れやかな気分になった。いつもは立場逆なんだもん。
「ま、僕には一切関係ないけどね。応援ぐらいはしたげるよー。ほら、僕勝ち組だし?」
依然僕の首筋でもふもふしていた御影の頭を引き寄せながらにやっと笑うと、虎は軽く僕を睨んだ。
「お前、絶対Sだよな」
「あ、じゃあ虎ってM?」
「っざけんなどっちでもねえよ!!Mは市羽目だろ、市羽目。」
「違うよ、アイツはどっちでもないのにそういう役回りにされたかわいそうなヤツだよ」
「ぶはっ、あーなるほど」

「ったく、失礼だな。もう。」

「「……………」」
え?
「「いっ、いっ、市羽目ぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?」」
「君らは双子か。いいリアクションどうも。」
憮然とした表情で、戸口に立つ市羽目は言った。

勝ち組=リア充。和弘爆発しろ。嘘です。

2010/09/12:ソヨゴ


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