「なー柳、久しぶりにヤろうぜー」

ハニートラップ?

「珍しく家に誘われたなと思ったら………やっぱりそんな理由か。」
柳はふう、とため息をついた。だってしょうがないだろ、こんな用事でもないと、お前俺ん家こないじゃん。
お前の家じゃ仲々ヤれないし…… 俺の家なら、親はほとんど不在だ。
「いいじゃんいいじゃん、せっかくハロウィンなんだしさ」
ぼふ、とソファーに押し倒す。柳は眉をひそめながら言った。
「何でせっかくのハロウィンなのに、野郎とヤらなきゃならないんだよ。」
「えーダメか?」
「そうは言ってないけど………」
ハロウィンなんだから、さ。特別なことしようぜ。
耳元で、いつもより幾分低い声で囁く。バカ、何言ってんだ。いつもの罵倒が、少しだけ色っぽくなった。
「どうしよう……何しようか、柳。」
「俺は、何もしたくないんだよっ」
ぐい、と押し戻される。柳はするりと俺の下から抜け出て、テーブルに向かった。
「ハロウィンパーティーするとか、言ってなかったか?用意してあるんだし、遊んでから考えようぜ、そういうことは。」
あーじゃあ、遊んでからならヤってもいい?
肩に腕を回す。柳は下からジト目で睨んだ。
こういう時、俺と柳のちょっとした身長差に感謝する。このちょっとした差がなかったら、こういう柳の珍しい子供っぽい顔を、見ることも出来ない訳で。 へへへ、と笑っていたら、何だよ気持ち悪いな、と身を引かれた。
「ちぇっケチだなあ、イイじゃん減るモンでも____あるか」
「お前も突っ込まれてみればいいのに……お前を時々本気でぶん殴りたくなるよ、俺は。」
「怒るなってー、お前も気持ちいいんだろ?だったらいいじゃん。」
それとこれとは話が、別。
柳はすねたように言うとテーブルの上のビスケットに手を伸ばした。
一口、食べる。 柳は首を傾げた。
「? あれ?このビスケット、味がついてないぞ。」
「そりゃそうだっつの、ほら、そこにある蜂蜜をかけ、て………」
ん?
蜂蜜?
「あ」
「…………何だよ、マヌケな声出して。」
柳はビスケットに蜂蜜を少しだけかけて、口に含んだ。蜜がグロスみたいに唇を光らせる。甘い。呟いて柳は唇を舐めた。
きーめた。
「柳、こっちむーいて」
「ん? なんだ?」
こちらを向いた柳の、肘を掴んで思いっきり引く。バランスを崩した柳の身体を持ち上げた。
「っ、おい、お前待て、なんだこれ!!」
「お姫様だっこ?」
「分かってんだよそんなことは!!!何のつもりだって聞いてるんだ!!」
不意打ちだったせいか、柳は少し怒っているようだった。おおこわ。
「さーて何のつもりなんだろーねぇ 神のみぞ知るってことで」
「茶化すんじゃねえよ!なんだよこの状況、恥ずかしいなあ!」
降ろせっ!!
じたばたと暴れる柳を何とか押さえて、蜂蜜を手に取った。そのままソファーまで持っていく。
「おわっ!?」
どすーん。口でいいながら柳を落としたら、柳は似合わぬ声を上げた。
「おわっ!? だってーおわっ!? お前らしくもないじゃん」
「うるさいんだよお前は。おい、遊んでからにするんじゃなかったのか?」
盛りやがって。柳はわずかに顔をしかめた。はいはいどーせ盛ってますよ俺は。
お前が欲しくてたまらないですよ、俺は
「お前、随分着込んできたなぁ。」
「秋だったら普通だろ、これくらい。」
もう11月になると言うのに。柳は呆れたように言った。お前なんでまだTシャツなんだよ。
「え?いいじゃんラクなんだよ。」
それより柳の方こそ着すぎなんじゃない? 言いつつ柳の全身を眺める。長ズボン、長袖、カーディガン。これにコートとマフラーだったもんなあ。
「お前もしかして、寒がり?」
「だったら何だよ?寒いのは苦手なんだ。」
へえー、冬生まれなのにねえ。
呟きつつカーディガンのチャックを下ろした。
「おい待て、脱がせる気満々じゃないか。」
「そうだけど?」
「何で平然としてるんだよお前は。」
バカやめろ、服の中に手を突っ込むな。柳は何やら騒いでいるが聞こえなかったことにした。長袖の下のタンクトップと、肌の間に手を入れる。柳は小さく呻いた。
「んっ、お前、手、つめた、」
「あーそうそう、良く言われる。冷え性なんかなー俺って」
へその辺りを通過して、脇腹をなぞる。柳から吐息が漏れた。
「や、やめ、冷たいんだよ、指が」
「冷たいの嫌いか?」
「だ、だから、寒いのが嫌いだっていったろ? 冷たいのだって、嫌いだ。」
あーじゃあ、アイスクリーム食べるの付き合わせちゃったのは、悪かったかなあ。
ぼんやりと思う。だって、甘い上に冷たいぞ、アレ。
「じゃあ、キスしてやるよ。脱がすぞ。」
冷たいのがイヤならば、温かくしてやろうと思って。まあ後付けの理由だけどな。
カーディガンと長袖を脱がす。多少抵抗されたが特に問題はない。柳もそのうち乗り気になってくるのは知ってるんだ、経験上。
腹に、脇腹に、肩に。軽く唇を押し当てると、肩にきた時に柳は俺に抱きついた。
およ、珍し。内心どぎまぎしていると、柳は小さな声で言った。
「ミ、ミサワ、寒いんだけ、ど」
え?  あー、上半身裸だもんなあ。
合点がいった。一人納得していると、柳が悔しそうに言う。
「恥ずかしいこと言うなよな……」
「恥ずかしい?」
「だから、上半身裸、とか、イヤだろなんか。」
とにかく、寒い。
誤摩化すように付け足す。かーわいいなぁ、思いつつ、それはおくびにも出さずに俺は提案した。
「じゃあ、カーディガンだけ羽織るか?」
「_____ん、そうする。」
裸にカーディガンって………裸よりもエロくない?もちろんそれが狙いです。
柳は腕を通さずに、カーディガンをかけるように羽織った。
「うわ………えっろ」
「は?」
「いや、気にすんな。」
これで服着るとか言いだしたら困る。気付かれないように俺は柳にキスをした。
ふっ、んっ、んぅ。柳の口から吐息が漏れる。本当は柳の方が俺よりキスは巧いんだけど、大人しくされてくれるのがまた、かわいいんだよね。
ひとしきり舌を絡ませた後、唇をはなした。そう、この顔。俺は柳のこの顔が好きだ。キスをした直後の、唇が色づいて頬がピンク色になって目が少しだけとろけてる、この顔が。この顔を見ると、柳がたまらなく欲しくなる。つまりは、そそられるってこと。
「じゃ、寒がりな柳のために……ちょっと身体を温めますか?」
茶化して笑って、柳のうなじに手を回した。指でなで上げただけで、ふぁぁ、と柳にしては大きい声が漏れる。
「あん、あ、いきなり、そこ?」
「手っ取り早くあったまろうぜ………ほら、熱くなってきたろ?」
しつこくしつこく指でいじる。指を動かす度に、柳は目を閉じて喘いだ。色っぽい。エロいなぁ、食っちまいたい、早く。
「どう?柳、身体熱くなってきた?」
「あ、あぁ、ん、熱い」
うなじから手を放し、そばにおいて置いた蜂蜜に手を伸ばした。せっかくのハロウィンなら、お菓子も悪戯も、どっちも欲しい。
「柳、俺さぁ、悪戯だけじゃイヤだなあ。せっかくハロウィンだろ?お菓子も食べたいんだよね。」
「? だ、だから何だよ?」
「だからさー、柳……お菓子になってくれないか?食べてやるよ。」
二の句が告げないでいる柳の身体に思いっきり蜂蜜をぶっかける。 最初は細い口のままかけていたが、面倒になって中のキャップも外してしまった。ぼとぼとと、重たい液体が落ちていく。
「うあ、何だよこれっ、蜂蜜?」
「そう。ハロウィンっぽいだろ?」
「そりゃ、そうだけど……俺にかける必要はないだろ!」
柳のつやつやした髪から、蜂蜜が滴り落ちている。目元や頬にくっつく蜂蜜を舐めとった。声がかわいい。
「どうすんだよこれ、っ、べたべただ………」
「大丈夫、俺が全部綺麗に、舐めとってやるからさ。」
カーディガンを少しだけずらす。左肩があらわになった。舐めるように、吸い付くように、唇を押し当てる。んんっ、と柳は喘いで、目を開けた。
「あっ、ミサワ、本気で舐めとるつもりなのか?全部?」
「あったり前だろ。せっかく目の前に、かわいいお菓子がおいてあんだぜ?食べ切らなくちゃ損だろ」
またお前は、恥ずかしげもなく。睨まれたが、その目線すら今はかわいく見える。蜂蜜ってすげえや。
柳のベルトを抜き取って、ボタンを外す。肌を滑るように蜂蜜を掬うと、柳はひゃぁ、と喘いで身体を震わせた。蜂蜜がたっぷり付いた片手を、下着の中に突っ込む。擦るようにすりつけて、握って、指で弄ぶと、柳は脚をぴくぴくと痙攣させた。
「ああ、や、やあ、やめ、ろ、やめろって、ミサワ!」
「何だよ、大人しくしてろっつの」
「か、身体、が、熱い………ミサワ、やめ、なにも、考えられなくなりそうだっ」
柳は俺に縋るようにしがみついてきた。なるほどその身体は確かに熱い。熱に浮かされたよう、とは、このことか。
「たまにはいいじゃねえか。お前いっつも、面倒なことばっかり考えてんだろ?たまにはなんにも考えないで、快楽に溺れちゃってもいいんじゃない?」
「い、いい加減な、ことを………ばか」
声に覇気がない。身体はさらに熱を帯びていく。俺もだ。
「何だよ、ここいじられんのがイヤなの?だったら入れてやろっか」
「なっ、やめろよ!!お前ローション代わりに蜂蜜使うつもりでいるだろ!!絶対ヤだ!!」
そー言われると、やりたくなってくるのが人情ってものだろう。
余っていた蜂蜜を手に取って、そのまま柳の中に突っ込んだ。俺はとっくに勃っちまってるし、挿れんのは簡単だ。
ずる、と音を立てて中に入った。音が響いた瞬間に、柳は泣きそうになりながら目を固くつぶった。端から涙が一滴こぼれる。泣くなよ腫れるぜ。言っても逆効果だったらしい、涙は少しずつ溢れていく。
柳の口が俺の耳元で声を出す。しめった喘ぎ声。ぞくぞくする。わざとやってんの?と言いたくなったがやめておいた。コイツはそういうことは出来ないタイプの人間だ。案外純粋だし。
「ふぁ、あ、まって、俺、このままだと、お前より先に、イッ、ちゃう、」
「あ?構わねーぜ。お前がイこうがイくまいが、俺は後からいくらでも抜ける訳だし。お前が居ればな。」
柳、お前、蜂蜜、似合うなあ。ぼそっと俺は呟いた。薄い山吹のとろりとした液体は、えろくて甘くてかわいい俺の“所有物”に、良く似てる。恋人とは言えない。かといって友人でもない。そりゃ俺が執着してんのが問題なんだろうけど、お前がかわいいのが悪い。俺だけのせいじゃ、ないからな?
閉じ込めたいと思うこともあるけど、今はまだいい。時々そうやって、俺に媚態を見せてくれれば、それでいい_____だって俺しか知らないだろ?氷のように美しくて、誰も触れられないお前の、こんな姿は。
だったらそれでいいんだ。
「あ、あぁ、ん……ひぁ、ミサワぁ」
「ん?どうした?つらい?」
「つらいのも、そう、だけど……最近お前、優しい、な」
とろけた瞳で言われると、対応に困る。第一、俺がお前を犯すとき、いつもひどくしてたのは____不安だったからだ。今は、そうじゃない。
でもこんなこと言えるか?おい。
「あーいや、えっとぉ、そのぉ、まぁなんつーの?気分?的なー??」
「何で女子高生みたいになってんだ……? いやまぁ、それはいいんだけど。」
なーんか、物足りないんだよな。
ぼそっと、柳はとんでもないことを言いやがって下さった。
「…………はい!?」
「あのさぁミサワ、俺辛いもの好きだろ?」
え?あぁ、うん。ものすごい辛党だよな。
答える。それが一体どうしましたか。
「根拠のない話ではあるんだが………辛いものが好きなヤツって、どうやら、Mらしいぞ。」
________はぁ?
「ってことは、え、お前、それはつまり、」
「そ。だから俺、Mかもしんない。」
妖艶に微笑んで、柳は言った。
「え、えええ、M!?お前が!?」
「だってその理論で行くとそうだろ?しかも重度のMだよな、比例するとしたら。」
ははっ、と柳は笑った。俺は笑っていられない。
「え、Mかよ、え、お前が?え、信じらんねぇちょっと待って」
「だからさ、ミサワ。俺の言いたいこと、分かるだろ?」
する。絡ませるように、柳は俺の首に腕を回した。下から見上げられて、改めてその美形っぷりを確認する。
「あ、いや、悪い、俺今混乱しておりましてですね、えっと」
「全く………しょうがないな。恥ずかしいから一度しか言わないぞ。」
ふう、と少々呆れ顔でため息をつくと、柳は俺の耳元に口を寄せた。
いつも通りの冷たい声。けどいつもより、湿っぽくて、艶やかな。吐息まじりの甘い声で、柳は囁いた。
「なぁ、ミサワ………もっと、ひどくして?」
悪いけど、もう限界。
思い切り押し倒して、体重をかけて突き上げる。柳は首を反らして喘いだ。
「あっ、ふあ、あぁ、い、いきなり過ぎるぞ」
「いや、もう、無理だろ。 あんなこと言い出しやがって、お前さ、」
もしかしてさっき、俺の耳元で喘いでたの………わざと?
聞いてみる。柳は悪戯っぽい笑みを浮かべた。
「当たり前だろ。引っかかった?ばーか。」
なしなし、さっきの評価は訂正しよう。何が純粋だ、このビッチ野郎。
「お前はお前で盛ってんじゃんか、なぁ? この淫乱」
「っは、んぁ、お前に言われたくねぇよ、万年発情期。」
ったくお前は。綺麗でエロくてかわいくて、どこの菓子より最高だよ。
「んじゃあお望み通りひどくしてやるよ。今日は家帰さねーぞ」
「え、それは困る、な。 悠待ってんのに。」
「やーなこった。誘ったお前が悪いんだ。」



あーあ、まんまと引っかかっちまった。

兄ちゃんがMなのはミサワの前限定ですから。

2010/10/31:ソヨゴ


戻る inserted by FC2 system