「虎、酒飲まない?」
声をかける。と、虎は本から目を上げてこちらを向いた。
「おぉ、いいぜ。飲むか。」
机に軽く寄りかかった虎に瓶を渡す。虎は受け取ってすぐに一口、煽った。
「……? あれ、この酒なんかいつもより苦いぞ。」
「そう? 気のせいじゃないかな。」
気のせい? 虎は瓶を眺めていぶかしげに言った。 うーん、もうそろそろ、かな?
体に回り始めるのは。
「だってこれ、辛口だぜ?苦いだなんてそんな話がある訳、な、_____!?」
虎は突然体勢を崩した。勢いよく机に手をつきながら虎は僕を睨む。
「和弘てめぇ、」
「安心してよ。毒とかじゃないから……媚薬の類いでもない。ただ単に、力が抜けるだけ。」
言っている間にも、虎はずるずると体を沈めていった。机にしがみつく。
「何のつもりだよ、和弘。」
そばに寄ってしゃがんだ僕に、虎はキツい口調で言った。
「何のつもりだと思う? 僕が何をしたいのか、虎、分かる?」
表情を変えずに返した。 はぁ?苛立った声音を出す虎に、僕は言う。
「ごめんね、虎。今から僕に犯されてよ。」
虎が疑問の声をあげる前に押し倒した。ふざけんな離れろ!虎が叫ぶ。
「何言ってやがる!!はっ、お前、とうとう頭おかしくなったか?」
「昔からでしょそんなの。今さら過ぎるよ。」
虎は僕の声を聞いてようやく、これが冗談ではないと気がついたようだった。押し返してくる手を無視してキスをする。
でも虎は、唇を開こうとはしなかった。頑なに。
「………口、開いてよ。」
「誰が開くか!!俺は、俺はイヤだ!!お前と、こんな、」
舌なんて絡ませてたまるか。
怒りのこもった声。 いつ恐怖に変わるかな?楽しみ。
「うっさい。君が嫌とか嫌じゃないとか、そんなの僕には関係ないから。」
もう一度キスをする。閉じた唇の隙間に舌を這わせた。端から端までゆっくりと、何度も、何度も、執拗に。繰り返しているうちにやっと、ほんのわずか唇が開いた。すかさず舌を差し入れる。
避けようともがく虎の舌を、捕まえる。絡ませると、虎は悲鳴にも似た声で呻いた。その混乱も、ショックも、手に取るように分かる。想像してた通りだ。
口を離した。雨の音がしとしとと、暗い教室を湿らせる。
「和弘……お前、何で。お前には、御影がいるだろ?」
虎の瞳は潤んで見えた。僕は、わざと最悪な答えを返す。
「はぁ?御影にこんなこと、出来る訳ないでしょ?」
正確に言えば君に『したい』のだ、けれど。
「じゃ、じゃあお前は………俺にだったらしてもいい、って、言うのか?」
「ん? 違うよ、そうじゃない。」
ズボンを脱がせ、下着を抜き取る。ローションをポケットから出して指につけ、虎の中に塗りたくった。
「っは、うぁ、ぁ、くっ、和弘っ!!」
「もう、何?」
「何じゃねぇよ!!お前何する気なんだよ!?意味分かんねぇよやめろよ、何でだよ、くそっ」
思うように抵抗できないらしい。虎は僕が指を動かすたび、苦しそうに歯を食いしばった。歪ませたい。もっと、もっと。
「虎。中、挿れるよ。」
嘘だろ、と震える声で呟く虎の胸倉を掴んで起き上がらせる。そのまま引っ張って僕の方に倒れ込ませた。
手、ついて。虎から離れながら言う。四つん這いに近い格好になった虎の割れ目を、指で少しだけ広げた。
「っおい、和弘!!イヤだ、何すんだよ、嫌だ、俺はイヤだ!!和弘が、入って、くる、なんて、なぁ、和弘!!」
無視して中に突っ込む。虎はびく、と体を震わせた。涙が一滴こぼれ落ちる。
「和弘、なんで、何で俺なんだよ!親友じゃなかったのかよ!? 少なくとも俺は、お前を、信じて、」
「____勘違いしないで、虎。」
不安にさせるような答え方を、した。すぐに答え合わせはするつもりでいる。言ったところで、君には分からないだろうけど。
「っ、お前は……俺のこと、親友だなんて、思って、なかったのか?」
予想通りの返し方。僕は笑っちゃいそうになりながら、口を開く。
「いーや、虎。君は僕の親友だよ。」
「だって、勘違いすんなって、」
「そういう意味じゃない。僕は虎のこと犯してるけどさ、それは虎が嫌いだからじゃ、ないよ。」
じゃあ、何でだよ。
親友なのにどうして、こんなことするんだよ。
泣きながら虎は言った。少しだけ、しゃくり上げながら。僕は当然のように返す。
「親友だから、犯してるんだよ。君だから、虎だから。他の誰かなんてどこにもいないよ。」
理解できないだろうなぁ、きっと。
「僕にとって虎はさ、一番大事な人間なんだよ。一番信じてる、一番大切に思ってる。それは虎も同じでしょ?」
うぬぼれかな。呟くと、虎は違うと言い切った。違う、俺だって、俺だってお前が大事だ。
「だよね、やっぱり。」
「ワケ分かんねぇよ!!俺の気持ち分かってんのに、何で?お前だって俺のこと、大事だって今、言ったじゃねぇかよ。」
虎、君にはきっと分からないよ。僕、頭おかしいから。けどそんな僕を選んでしまったのは君だ。そんな僕と親友になった、君が、悪いんだ。
「虎、虎は頭おかしい僕のこと、信じたよね?こんな僕を、バカみたいに。親友で、信じてて、そんな相手に傷付けられたら君は____どうなっちゃうのかなぁ、って。」
そしてその大事な人を_____僕の一番大事な人を僕自身の手で傷付けた時、僕はどれくらい、愉しい思いをするのだろうか。
背筋がぞわぞわする。心臓の辺りがゾクゾク喚く。これ、この、背徳感。好きなんだ。心地いいんだ。この感覚が欲しくて僕は、君を、汚してしまう。
快楽に耐えきれなくて、虎は崩れ落ち肘をついた。耳元で、囁く。
「この体勢のまま、耐えてね。倒れちゃったらフェラしてもらうよ。」
ふざけんなよ。虎は喚いた。なぁおい抜けよ、なんだよ、フェラって何だよ、したくねぇよ、嫌だ。
僕が虎の中を擦りあげるたび、虎は湿った声をあげた。でも喘ごうとはしない、堪えてる。つまんないなあ、僕は虎の声聞きたいのに。
「ねぇ虎、もっと啼いてよ。喘ぎなよ。つまんない。」
「っは、嫌だ、絶対イヤだ!!死んでも喘いでたまるか、喘いだり、しねえぞ。」
それでもやっぱり、体は正直なようで。突き上げると、虎はびくびくと反応して、顔を地面に伏せた。
「あれ?虎、崩れちゃダメだよ。これ以上崩れちゃったらフェラしてもらうよ。」
背中に手を置き軽く押す。虎は少しだけ喘いだ。
「んっ、くっ、は、うぁ、」
「あは。虎、キモチいい?」
ふざけんな、と返される。生意気なことを言う、なぁ。
「随分苦しそうだけど……崩れちゃえばいいじゃん。」
「何言ってんだよ!!崩れたら、フェラしなきゃ、なんねぇんだろっ!? そんなの絶対イヤだ、何で俺がお前のなんて、くわえなきゃ、ならないんだよっ!!」
そっかあ僕は、くわえて欲しいな。
笑みを浮かべて返した。きっと、歪んで映っただろう。
ずっ、ずっ、と音が立っている。ひぁぁ、あ、和弘、やめろ、やめてくれ。 虎が言った。 崩れそうだ、嫌だ。
「へぇ、だから何?僕には何の問題もないよ。」
背中をグイと押しながら一際強く突き上げると、とうとう虎は崩れ落ちてしまった。
膝がずるずると滑っていく。床に倒れ伏した虎は、泣きはらした顔をこちらに向けた。
「っ、和弘、なんで」
「理由ならさっき、言ったでしょ」
「俺はっ、お前を信じてたのにっ!」
そーだね、君は優しいもんね、虎。
言わないでおくことにした。虎は顔を背けながら続ける。
「母さんが死んで、から、俺は、愛が怖くて、拒絶して……でも愛は欲しくて、足りなくて、怖くて、苦しくて、でも、でも……和弘、お前だけは怖くなかったんだ。」
へぇ、と僕は思った。こんなこと考えてたのか。
「好かれるのが怖かった、愛されるのはもっと怖くて、でも、和弘は怖くなかった、何でか、なんて、分かんねえけど………お前に好かれたり、親友だって言われたり、しても、全然、怖くなかったんだよ。和弘だけは、受け入れられた。拒絶なんて、しないでいられた。なぁ、お前だけだったんだぞ和弘、俺は、お前しか、いなかった、のに……なのに、何で?どうしてだよ、怖いよ、和弘ぉ………」
虎は泣きじゃくりながら繰り返した。怖いよ、怖い。和弘、怖いよ。
虎を傷付けたい訳じゃないのに。泣かせたい訳じゃないのに。なのにもう一人の自分が、したいことは、真逆だ。
崩して乱して、ねじ伏せたい。 虎、僕はやっぱり化け物だよ。
君は、僕が君の側から離れると言った時、力ずくで引き止めた。でも、いいの?僕、こんなんだよ。僕と一緒にいるとさ、これからも、裏切られて、傷付けられて、打ちのめされて、ねぇ、いいの?
「うぁっ、あっ、和、弘、俺お前が怖いよ。俺は、俺はどうすればいい?………お前まで怖くなっちまったら、俺は、どうすればいいんだよ………っ」
嫌いになっちゃえば?僕は言った。 嫌いになっちゃえば?そしたら楽になれるんじゃないの。虎が僕のこと、この期に及んで好きなままだから、今、そんなに苦しいんだろ?
「嫌いになんて、なれる訳、あるかっ」
「どうして?」
「だってお前は、“所木和弘”(俺の親友だろっ!?理屈じゃねぇんだ、俺は、お前を、嫌いになんてなれねぇんだよ!! っ、イヤだよ和弘、怖がりたくない。お前のこと怖いだなんて、思いたく、ねぇよ。」
引き抜く。こっち向いて、と声をかけると、虎は拙い動作で起き上がり、こちらを向いた。
押し倒す。呆気なく虎は倒れた。口の中に突っ込む、虎は、泣き出しそうに喘いで、嫌がる。
「ん、んぅ、ぁ、ふぁ、」
「言ったよね、崩れちゃったらフェラしてよって。ほら早く舐めれば?舐めなきゃ虎、ずっとくわえっぱなしだよ?」
一回イッたら、やめにしてあげる。僕の言葉でようやく、虎は僕のを舐め始めた。
「っあ、ふ、………キモチいい。ほら虎、目、閉じて?」
右手で虎の目を塞いだ。虎の耳にはきっと、自分の立てる水音が、大きく聞こえているはずで。
指に温い液体の感触が伝わる。泣いてるなあ、ぼろぼろだ。ぐちゃぐちゃだ。これは全部、僕が、やった。
なぁ和弘、コイツ、お前の親友なんだろ?何でこんなことしてんの?何でそんなに愉しんでんの? 何でだろう、なんで、僕は。
好きな人の幸せを、願うことすら、出来ないのだろうか。

君を愛す


タイトルは某名曲からとりました。が、内容は全然関係ないです。
あんまり色っぽくはなりませんでしたね。暗いなぁ。

2010/10/31:ソヨゴ


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