相当危ないです。15禁と18禁の狭間ぐらいの気持ちで読んでね


兄さんは俺に、制服を投げて寄越した。

泣かせてみようか

「何?これ。」
受け取りつつ尋ねると、兄さんはパソコンの画面を見たまま素っ気なく答えた。
「SEPの制服だ。乗り込んで、様子を見てきて欲しい。」
「それって、潜入するってこと?」
「そうだ。」
SEP、か。名前だけは聞いたことがある、日本政府の工作員養成計画。
「SEP教練場はコースによって区域が分けられている。その区域の中に女子棟、男子棟があるようだ。基本化け物しかいない場所だが、戦闘員コースより指揮官コースに行った方がいいだろう。」
「あ、うん……分かった。」
侵入までは手伝ってやるから。そう言って兄さんは立ち上がった。
「着替えたら外に出ろ。」
「う、うん。」
バタン、と扉が閉まる。とりあえず速く着替えないと怒られそうだったから、俺は服を脱ぎ始めた。


「着たか?」
「うん。ごめん、遅くなって。」
「別にいい。」
言うと、兄さんはさっさと車に乗り込んだ。俺も助手席のドアを開いて乗り込む。
車独特の、ゴムが焼けるような匂いが鼻をついた。俺はこの匂いが苦手だ。
ちらと兄さんの顔を伺うと、兄さんもまた軽く顔をしかめていた。基本俺ら兄弟は似てないけど、時々こんな風に考えがシンクロしたりする。
兄さんの黒い手袋から、白い手首が少しだけ覗いている。すごい色の違いだ、そんなことを思っていたら、いつの間にか車は動き出していた。


「……え、ここ?」
「そう。」
「で、でっか……」
そびえ立つコンクリートの塀。高い高い鉄製の門。入らせてはくれないような、入ったら最後二度と出れないような、そんな威圧感。正直に言うと、俺はビビっていた。
「入るぞ。」
兄さんはつかつかと門の前まで行くと、小さな通信機を取り出してがちゃがちゃといじり出した。そのうち、門にへばりついていた機械がキュルキュル音を立て、しばらくしてから門が、重苦しい音を出しながら開いた。
「じゃあ、潜入してきてくれ。何かあったら電話してきてもいいが、仲間のことは、考えろ。」
____それって、いざとなったら見捨てるってことだよね。
分かり切ってたことだけど。俺は心のどこかが小さく痛むのを無視して、中に入った。


「指揮官コースは……この区域、か。」
地図をしまう。男子棟は全部で五つ、AからEまでのアルファベットで分けられている。ランクとかは特になく、ランダムに振り分けられてるらしい。
とりあえず一番近いC棟に行き、中に入る。教練場に入る時点でかなりきついセキュリティがかかっているからか、寮自体には特に何もなかった。
しばらく中を歩き回ってみたが、人影は見当たらない。
「上の階、行ってみよう。」
階段を上る。一階分すっ飛ばして三階まで昇った。ちらほらと人影が見える。でもみんな、話しかけられない雰囲気だ。
廊下をとぼとぼと歩く。すれ違う人達はみんな異様だ。ぶつぶつと化学式を呟き続けている者、拷問の方法を暗唱しながら歩いていく者。どいつもこいつも関わりたくない。
あああもう、どうしよ。
はぁ、と思わずため息をついた。着慣れない制服も窮屈で憂鬱になる一方だ。
「ねぇ君、見ない顔だね。」
肩を叩かれてちょっとドキッとする。あわてて振り向くと、人なつこそうに彼は笑った。
「そんなに驚かなくても!君、今日入ったばかり?」
「あ、えと、実はそう。」
やっぱそうなんだー。言っちゃあなんだけどここ頭おかしいヤツばっかだから、怖かったでしょ?」
うん、とうなずく。よかった、まともな人もいた。
「よかったらボクが色々教えてあげるよ。」
「あ、ありがとう、すごく助かるよ。」
よかった、と彼は笑った。背を向けて歩き始めた彼についていく。
長髪の少年が、彼を見て嫌悪するように顔を背けたのが、少しだけ気になった。


「ほら、ここ。入って。」
彼は外開きのドアを開け、部屋の中を示した。
ありがとう。
礼を言って中に入ろうとすると、丁度部屋の真正面に立った瞬間に、思い切り突き飛ばされた。
「っ、うわっ!」
いきなりのことで反応できずに、床に身を打ち付ける。振り返って彼を見ると、彼は意地の悪い笑みを浮かべてこちらを見ていた。
「はは、市羽目君だっけ。ここがどういう場所なのか、今からボクらが教えてあげるよ。」
「ぼく、ら?」
がし、と腕を締め上げられた。横に目をやれば、同じ制服を着た誰かが俺のすぐそばで笑っていた。辺りを見回す。数名の男子。
「え……ちょっと待ってよ、何する気?」
「決まってるでしょ?今からボクたち×すんだよ、君のこと。」
え?
×、す?
サァッと血の気が一気に引いてゆく。ざわざわと血が騒ぎ始めた。
「ま、待ってよ!!何で俺なの!?」
「かわいい顔してるから、じゃダメ?理由なんてどうでもいいじゃん。」
息が詰まった。数人がかりで押し倒される。身動きが取れないでいると彼は俺の上に乗り、制服のボタンをぶちぶちと飛ばした。中に着ていたTシャツも一気に引き裂かれる。
「次は俺だからな、早くしろよ。」
「そう急かすなって。」
×され、る。
ゾッとした。けどすぐに、兄さんの言葉が脳裏をよぎる。助けてはもらえない。×されたとしても、俺は見捨てられるだけ。
急に頭のどこかが冷えていくのを感じた。あーあ、何されるんだろ、俺。どこか他人事のように感じながら、俺は覚悟を決めた。
決めた、のに。

突然、部屋の中に金属音が響いた。
彼はぴたりと動きを止め、すぐさま音の発生源を振り返る。光が漏れている。鍵がかかっているはずのドアは、いつの間にか、開いていた。
「お前、一体何者で_____」
俺の上で膝立ちになっていた彼は、見る見るうちにハチの巣にされた。体中に小さな穴を山ほどあけて、彼は棒のように倒れていった。
やっと侵入者の姿が確認できた。長身だ。顔半分が黒いマフラーで隠れていて分からないけど、あの目は、アレはあの人と同じ______
部屋にいた数名の男子は、侵入者がサブマシンガンで撃ち殺してしまった。顔のすぐそばを銃弾が飛んで肝が冷える。
血を浴びて呆然としている俺に寄ると、侵入者は着ていたコートを脱いでかがみ込み、俺に着せて、言った。
「逃げるぞ」
「え?」
侵入者はコートの下にSEPの制服を着ていた。差し出された手を掴むと、引っ張り上げられた。立って、部屋を出る。
早歩きで外へと向かう。外は大混乱で、でもそのせいか誰も俺らに目を留めない。侵入者は黒いマフラーを取って、その整った顔を俺に向けた。
「____兄さん」
「早く出るぞ、ここから。」
俺はコートに震える体を隠して、兄さんについていった。握っている手は案外、温かい。
途中、さっきの長髪の少年とすれ違った。妹らしき女の子のなを叫びながら走り去っていく。ノユ?変わった名前だ。
兄さんは俺の肩に手を回して、空いている方の手で携帯を取り出し、電話をかけた。
「あぁ、ミサワ?もうすぐ教練場から出る。いや、アジトには戻らない。そのまま家に帰るつもりだ。あぁ、頼むぞ。じゃあな。」
両親はもうとっくのとうに本国に戻ってしまっている。つまり家に帰るということは、俺と兄さんの二人っきりになるってことだ。
出られそうにもなかった教練場から兄さんはいとも簡単に抜け出た。無言で車のドアを開け、乗り込む。俺も黙って乗り込むと、兄さんはハンカチを俺に寄越した。
「顔。血、拭け。」
「あ、う、うん。」
グイ、と頬を拭う。車が動き出した。拭い終えてハンカチを握り締めていると、兄さんは片手を伸ばして俺の目元の血を拭った。


「入れ。」
兄さんは部屋のドアを開けて、さっさと中へ入っていった、兄さんの部屋に入るなんて、本当、何年ぶりだろう。
兄さんは制服のボタンを二、三個開けると、一気にまくり上げて脱ぎ捨てた。チャコールグレーのタンクトップが腹の上までめくれて、元に戻る。タンスの引き出しを開けてTシャツを一着俺に手渡すと、兄さんは部屋を出た。
ベッドのそばに座り、コートと、破れた服を脱いで着替える。脱いだ服を畳みながら部屋を見回した。
部屋には流行のバンドもスポーツ選手も居やしない。あるのはシンプルなカレンダーと、大学で使うであろうプリントが数枚、それだけ。
兄さんが中学生の頃だから、大体6年ぶりだろうか、この部屋に入ったのは。当時はポスターも二枚くらいは貼ってあった気がする。兄さんが俺を部屋に入れなくなってから、兄さんの部屋も変わっていったのだろか。
そうこうするうちに、兄さんがミルクティーを片手に戻ってきた。渡されたので、受け取って、飲む。いつもよりずっと甘くてあったかい。今の自分にひどく染み渡るような気がして、俺はあっという間に飲み干してしまった。
「悠」
「ふぇっ!?な、なに?」
「なに、じゃないだろう。自分が失敗したってこと、分かっているのか?」
やはり、ミサワに任せた方が賢い選択だったようだな。
冷たい言葉が胸に突き刺さる。今、真日さんを持ち出すことないじゃないか。分かりきってたことでしょ?__そんなの。
「怖かったか?」
「へ?」
「アイツらに襲われた時、だよ。」
薄れかけていた感覚が蘇る。でもアレは怖かった、というより……
「怖かったよ。怖かったけど……それより。」
「?」
「自分は何も出来ないんだ……っていう、絶望の方が、大きかった。」
あのとき感じた無力感は、決定的なものだった。×される、そう思った瞬間に、自分がひどくちっぽけなもののように感じた。脳の片隅が妙に冷めてしまって、何とはなしに、死にたくなって。
「…そうか。」
どうでも良さそうな声音。ちくりとした痛みを感じて、俯く。
「悠」
名を呼ぶ声。放っておいて欲しいのに。そう思いながら顔を上げた、ら。
くちゅ
水音が響いてからやっと、自分が何をされているのかが分かった。急いで舌で追い出そうとしたけど、逆に絡めとられてしまう。飲み終えたミルクティーのカップが、床に落ちて、ごとりと音を立てた。
「や、あ」
兄さんの肩を強く押して抵抗したら、手首を掴まれてしまった。頭の中がぐるぐるする。
兄さんは突然唇をはなした。長く絡めていたせいか、唾液が白く糸を引いて落ちる。
「うぁ…兄さん、いきなり、何」
「黙ってろ」
一言で切り捨てられて、床に押し倒される。今度は首筋を舐め上げられた。じたばたしているつもりなのに、体は少しも動かない。
タンクトップだからか、兄さんの腕がいつもより逞しく見える。細いから気付かなかったけど、その肩も腕も年相応に筋肉がついていて、今まで意識してなかったことを意識させた。
ああそうだ兄さんは、男の人、なんだ。
「兄さん、何、で、いきなり……んぁ、う、や、やめてよ」
何の反応も返ってこない。やめて、やめてよ、兄さん。何度言っても無言のまま。
兄さんは少し顔を上げて、俺の耳に口を寄せた。
「ひっ」
小さく悲鳴が漏れる。脚がざり、ざり、と勝手にカーペットをこする。
「う、ああ、兄さ、やだ、やめ」
ぞくぞく、と身体中を生温い感覚が這い回る。言葉が出なくなって、無駄に湿った音だけが口から漏れた。
兄さんは俺の耳を口に含んだ。中でいじくり回されて、体が熱くなっていく。兄さんは俺の眼鏡を外して、投げ捨てた。
怖い。
兄さんにこんなことされるなんて、思ってもみなかった。怖い。気持ちいい。怖い。気持ちいい。
言葉が頭の中から去って、感覚だけが居座り残る。怖い、気持ちいい、怖い、気持ちいい。
んああ、と少し大きめの声が出た。耳の後ろを舌が這ったから。
部屋の中に響く水音と俺の喘ぎ声。女の子みたいな声がイヤで、恥ずかしくて、堪えようとするけど耐えきれない。
兄さんは慣れた手つきで俺のズボンからベルトを抜き取った。いつの間にか俺の両手は兄さんの片手に押さえつけられている。する、とズボンが脱がされて、兄さんの手が俺の下着の中に入り込んだ。
「んぅ、や、あ、やめて、やだ、こわいよ兄ちゃん」
涙がぼろぼろと溢れ出す。何で?何で黙ってるの?何か言ってよ、怖いよ。
快楽が突き上げるように脳の裏側まで押し寄せる。きもちくて、イッちゃいそうで、こわい。
「やぁっ、いやだ、イヤだよ兄ちゃん!も、やめ、てよっ!!」
「………うるさいな。」
兄さんは苛立たしげに眉をひそめて俺にキスをした、乱暴に。しゃべれなくなる。お願い許して、もうやめて、ごめんなさい。言いたいのに言葉にならない。苦しい。
ぱ、と唇が離れる。兄さんも少しだけ、目がとろけている。
「あ……やぁ…もうイヤだ、兄ちゃぁん……ゆるして、も、しっぱい、しないから」
舌ったらずになっているのが自分でも分かる。でも恥ずかしがる余裕はなくて、とにかく許して欲しかった。苦しい。助けて、兄ちゃん。
「………そうだな、イヤだと言ったら、どうする?」
にぃ、と兄さんは楽しそうに笑った。その笑みに、目に、入り込まれてるような感覚。下着の中で蠢く指のスピードが速くなる。まともに抵抗も出来ないまま。俺はただされるがまま、喘ぐほか、なかった。


悠はひと際大きく声をあげると、イッた。そのままがくりと力が抜けて、悠はほんのわずかしていた抵抗もやめてしまった……いや、出来なくなったと言うべきか。
下着の中から手を抜き、中指についたモノだけを舐めとって、立ち上がる。悠は涙でぐちゃぐちゃになって、今はぼんやりとうつろな目をしている顔を俺に向けた。少しだけ欲情したが、無視して部屋を出る。
そのまま洗面所に行って、手についた液体を洗い流す。手を二回石鹸で洗ってから、タオルで手を拭き、部屋に戻った。
見ると、悠は眠りこけていた。抱きかかえて、ベッドに寝かせてやる。数秒考えた後、スボンは俺の部屋着をかしてやることにした。着替えさせたらダボダボだったが、まあ、いいか。
机からイスを引き出して座る。俺は何がしたかったのだろう。怖がらせてみたかった?謝らせてみたかった?泣かせてみたかった?どれでもない気もするし全て正しい気もする。ベッドで寝息を立てる悠。俺はしばらく間をおいてから、いつものように微笑した。

「………面白かったから、何だって、いいか。」


いじめたくなる弟。

2010/09/28:ソヨゴ


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