ちょ……っと危なめです。12禁ぐらい?注意してね。
「……何、見てるんだよ。」

教えてくれよな

「え?あーいや、別に。」
適当に誤摩化す。だって、正直に言ったら確実に頭ぶち抜かれるだろ。
「……だったらいいんだが。」
柳は少しだけ眉をひそめると、書類を手に取って眺めた。その規則正しく動く眼球や、伏せた目の長い睫毛をぼんやりと眺めて、バレないようにため息をつく。
三日前の今頃には、この部屋の床で俺に組みしかれていたくせに、柳は何事もなかったかのように振る舞っている。今に始まったことではないけど、今日は妙に、それが気になる。
柳はおもむろに藍色のケースに手を伸ばし、銀縁の眼鏡を取り出した。
「あれ、眼鏡付けんの?」
「あぁ、少し目が疲れてきてな。少し顔から離して見ないと、目がもっと悪くなりそうだ。」
柳は軽い近視だ。いつもはコンタクトだが、さすがに夜中は取っているし、何だかんだ眼鏡の方が楽なんだろう、多分。両目ともに1.5の視力を誇る俺には分からない話だ。
柳は眼鏡をクイ、と上げて、また書類に目を通した。フレームは細めの長方形で、下フレームがないタイプのものだ。形状記憶合金、だっけか、結構高性能な素材で出来ているらしい。まあ美青年は何付けても様になるわな、羨ましい限りだ。
「___あーもういい、飽きた。」
突然吐き捨てるようにそう言うと、柳は仲々豪快に書類を放り投げた。いいのかよそんな扱いして。
座る?
ぽんぽん、とソファーを叩くと、柳は軽くうなずいて俺の隣りに座った。
「あー疲れた。」
「おつかれー。いいのか?投げ捨てちゃってさ。」
「本当はよくない、が、もういい。眠い。」
ぼふ、と思い切り首を背もたれに預ける。その白い喉元を見ていたら、ちょっっっとだけムラッときた。
まあ、三日前にヤったばっかだしな。ヤらせてくんないだろーな。
最低でもあと二日は我慢、か。そう思いつつ柳に目をやると、柳もまた俺を見ていた。
「? 何?」
「いや……お前日本人なんだな、と思ってな。」
柳は背もたれに寄りかかるのをやめた。
「何となく。目の色違うな、と思って。」
「そりゃあなー。本当は、話す言語だって違うはずだろ?」
お?そーいえば。
柳の本当の名前って、柳の口から聞いたことないな。
「なー柳。柳の名前って、本当はどんなのなんだ?」
「え? “リュウ”、だが……」
「ふぅん、全然違うんだなー。」
もう母音とか子音とか、そういうのの発音からして違う感じだ。
言うと、柳はまぁなと薄く笑った。
「俺らの国の言語は、相当特殊なんだよ。似通った言語が一つもないんだ。」
「ほーう、それ、ちょっと自慢なの?」
「うーん……まぁ、少しだけ、な。」
はは、と柳は軽く笑う。俺は続けて質問してみた。
「なーなー、じゃあ俺の名前って、お前の国風の発音だとどんな感じ?」
「へ?……“ミサワ”、かな。」
「やっべ面影しか残ってねえ」
「当たり前だろう。全然違う言語なんだって言ってるじゃないか。」
柳は不機嫌そうに顔をしかめた。
「うーん、ミ、サワ?どんな感じ?」
「いや、“ミサワ”」
「えええー分かんねーよぉ」
「だーかーらー……」
ミ、サ、ワ。
柳は一音一音、丁寧に区切って発音してくれた。
「もーいーや、口の形ごと教えろ」
「は?」
のけぞって避けようとする柳の肩を掴んで、軽く押し倒す。肘掛けに両肘をついた柳の唇に、俺は触れる程度に自分のを重ねた。邪魔だな、と小さく呟いて、柳の眼鏡を放り捨てる。
「おい、」
「ほら、この状態でもう一回。」
「いや、もう一回と言われても」
「いーから。早く言えって。」
少々ムッとしたような表情で柳はもう一度言った。ミサワ。直で感じるくちびるの動きにほんのわずか欲情する。
「だめだぁ分かんね、もう一回。」
「お前分かる気あるのか?」
「分かる気あっから聞いてんの。ほら。」
「……しょうがないな。」
ミ、サ、ワ。分かったか?  いや、分かんねー。
何度か同じことを繰り返す。段々と、背筋がゾワゾワしてきた。
「悪い、もう一回。」
「もう一回って、さっきからもう何度目だと____んっ」
柳はするりと、唇と唇の間に手を差し入れた。
「っ、舌入れんなっ!」
「あ、悪い。」
無意識だった。
ウソつけ、と睨んでくる柳に対し、本当だってとあわてて返す。事実全然意識してなかった。
「あーでもさー……今日、ヤらせてくんない?柳。」
「はあ!?三日前にヤったばかりじゃないか。」
「何かゾクゾクしてきちった」
「俺は別に盛ってないんだよ、今日は。」
差し入れた手でぐい、と押しのけられる。そのまま俺の下から抜け出そうとする柳。俺は柳が逃げ切る前に口を開いて、言った。
「なぁ、いーじゃん……ヤらせろよ、“リュウ”」
ぴた、と一瞬動きを止めた柳の腕を掴んで引き寄せ、思いっきりキスをする。今度は舌を入れても抵抗しないで、艶っぽい喘ぎ声を出すだけだった。
口を離すと、柳は少しだけとろりとした目で俺を見た。その頬は薄く色づいている。元々真っ白な肌だから、ほんの少し色づいただけでもピンク色に見えるのだ。
「ん……あ……ミ、サワ、お前、どこで覚えて……」
感情の高ぶりは、今は、押し殺す。俺は平静を装った。
「俺も一応、語学は得意分野だかんな。こっそり勉強してたりするんだなーこれが。」
独学の割に上手いだろ?おどけて言うと、柳はいつもより覇気のない声で完璧だよ、と言った。
「で、どうだ?見返りをくれよ、努力のさ。」
首の後ろに手を這わせ、するり、となで上げると、柳は小さく身を震わせた。そして二回ほど荒く息を吐くと、少しだけ、甘い声を出した。
「___いいよ。今日だけ、だぞ。」
やっりい。
心の中でガッツポーズしてから、俺はもう一度柳にキスをした。
セフレなお二人。アダルトカップル万歳。

2010/09/27:ソヨゴ


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