エロいことはしてないけど、後半、悠が喘いでるんで注意かな?
「「「シスター!!」」」
子供達の元気な声。悠は教会の戸を開けながら、何食わぬ顔で言った。
「どうかしたの?みんな。」

You are sweet,sweet,

「「「シスター、Trick or Treat!!」」」
予想通りの言葉と格好に、思わず吹き出しそうになる。心が温まるのを感じながら、悠もまた、用意していた言葉を発した。
「悪戯されちゃあ敵わないや!お菓子をあげるよ。」
腕にかけていたバスケットから色とりどりのお菓子を取り出す。金の包みのチョコレート、紫色のキャンディ、ピンク色のマシュマロ。受け取ると子供達は、純真な笑顔を見せた。
「「「ありがとう、シスター!!」」」
手を振りながら駆け足で去っていく。手を振返して見送っていると、とんとん。肩を叩かれた。
「ん?」
「シスター、Trick or Treat。」
「………いい年して何やってんの。」
いいじゃん別に。ほらチョコレート、ちょうだい。
肩を叩いたのは悠の親友、隣りの雑貨屋で働く和弘だった。
「中途半端な仮装だなぁ!」
「そう?ちゃんと角も翼も付けてるじゃん。尻尾も。」
和弘は悪魔の仮装をしていた、のだが………角と翼と尻尾以外は、もう普通にいつもの普段着だ。いつもより多少黒っぽいけど、完全に、普段着。
やる気があるのかないのだか。
「ほら、お菓子くれなきゃ悪戯しちゃうよ。」
和弘に、悪戯?地球が滅びると言われたってされたくない。
ぞ、と背筋に冷たいものを感じつつ、悠は答えた。
「分かったよ…はい、チョコレート。」
「さんきゅ。」
高く投げて渡す。和弘は難なくキャッチして、チョコレートをほおばった。
ばいばーい。無気力に手を振りながら、和弘もまた去っていく。ばいばい、と返しつつ、悠はふと思った。
そーいやアイツ、仮装なんてしてるのかな?
「呼んだか?」
「おわあああ!」
噂をすれば影が差す。声の主は悠が思い浮かべていた人物_____もう一人の親友、本屋で働く虎だった。
「あ、仮装。してるんだね。」
「一応な。もっとも菓子には興味ねぇから、あげてばっかりなんだけどよ。」
おかげでさっき尽きちまった。言いつつ頭を掻く虎は、狼男の仮装をしている。言ったら疎まれそうだけど、正直すごく似合ってる。
「そうなんだ……虎もいる?お菓子。」
「あぁ。そのつもりで来たんだ。」
「え? お菓子に興味ないんじゃないの?」
小首をかしげて悠が尋ねる。と、虎はなんでもないことのように言った。
「あ? だっててめぇの作る菓子はいつもうめぇじゃねーか。」
えっ?あ、そうかな?
少し赤くなるのを感じて悠は俯いた。何照れてんだよ気持ち悪ぃ。虎は顔をしかめる。
「おら、菓子よこせ。」
「聞きもしないのかよ……はい、どーぞ。」
Trick or Treatぐらい言えよなぁ。一言でしょーが。
ぶつぶつと小言を言いつつ、悠はキャンディーを手渡した。
「ありがとな。んじゃ頑張れよ、シスターさん。」
言い残すと、虎は去ろうとした。____そう、去ろうとしたのだ。
「虎、Trick or Treat。」
行く手を阻む、人影。もちろんさっきも登場したあの人だ。
「うわっ和弘!? なんだその中途半端な仮装は」
「何でもいいだろ?こういうのは気分ですよ、気分。」
虎ー、何か持ってないの? いや、今丁度切らしてんだよ。
だめじゃん、と和弘は言った。楽しそうに。じゃあ悪戯するしかないなぁ、と。
「はぁ!?い、いや、ちょっと待て、今菓子取ってくるから、」
「今持ってなきゃダメに決まってんじゃん。何しよっかなー」
ニヤニヤ笑う和弘に、慌てふためく虎。珍しい構図に笑いそうになる。
「あーっ!!輪払さんだー!!」
「あら和弘どこ行ってたの!!悪魔の仮装?和弘は何でも似合うわね。」
反対側から、千弘と美弘がやって来た。二人とも天使の格好だ。
「二人は全然似合ってないね?天使とかおこがましいよ今すぐ脱げお前ら。」
「にいにヒドッwwww ってか脱げって何ー!?にいにったらえろいなぁv」
冗談めかして答えた妹に、兄は思い切り不快そうな表情を向けた。そんな顔しなくても。
「あ、そいーや和弘。さっき甘木がお前のこと探してたぜ。」
虎が思い出したように呟く。和弘は勢いよく反応した。
「うそっ、ちなみに何の仮装してた?」
「魔女。普通に似合ってたぜ。」
そりゃあそうだよ。御影は僕のハニーなんだからさ。
和弘はいとも簡単に言い放った。堂々としてんなぁ、もう。悠はちょっと呆れる。
「いけしゃあしゃあと惚気やがって……早く探しに行けよ。」
「そうするよ。 っと、そうそう虎。」
そのまま丘を下りかけた和弘は途中で急に止まって、ほっと息をついている虎を振り返った。
「悪戯の件は忘れてないから。」
ひっ、と虎は小さく悲鳴を上げて。それを見て満足げに笑みを浮かべて、和弘は街へと駆け出していった。
「……虎、ドンマイ。」
「ドンマイじゃねーよ……ああ、ああああああ考えたくねぇぇぇぇぇぇ」
虎はそう言って頭を抱えた。そんな虎を写メりつつ、千弘と美弘も丘を下って行ってしまった。何に使うつもりなのかな、千弘さん。悠はぼんやりと考える。
傍らの虎を見ながら途方に暮れた。可哀想とは思うけど、俺にしてあげれることってないよなぁ。ごめんね、と心の中で謝る。
と、その時。二人の頭上に、颯爽とした凛々しい声が降り掛かった。
「おやおや虎くん!しゃがみこんじゃってどうかしたのー?」
虎は弾かれたように顔を上げた。
「あ、と、十緒美先輩!」
急いで立ち上がる。そんな虎を見ながら十緒美は、楽しげにふふと笑った。
「やっほー虎くん。狼男、似合ってるねー」
「と、十緒美先輩こそ。その格好、すごく、似合ってます。」
虎は赤くなりながら答えた。そう?嬉しいなー。十緒美は付け耳に手をやりつつ、返す。
「化け猫ちゃんだよー。何だかお揃いみたいじゃなーい?虎くんとさ。」
「おっおそろっ______そうですか、ね。」
虎は真っ赤になって視線をそらした。分かりやすいなぁコイツ。
「士道さん、何だかセクシーですね、その仮装。」
さっきから気になっていたことに、悠はようやく触れることが出来た。
「そうー?確かに露出度高いかな?」
十緒美の服装はかなり大胆だった。上半身は胸の辺りが隠れているだけで、ウエストも何も丸見えだ。下半身だって、履いているのはものすごい短さのショーパン。そりゃあブーツは履いてるし、化け猫の格好だから、すっごくもふもふしているのだけど。
なるほどね。虎が赤くなっているのは、そのせいもあるのかな。
「虎くん虎くん、一緒にパーティ会場行かなーい?御影ちゃんもいるし、多分和弘くんも来るんじゃないかな。」
か、和弘、ですか。 虎は少しだけどもった。なるほど、会いたかないよなぁ。悠はその心情を察する。
「え、行きたくないのー?」
「いっいや、そんなことないです!」
そっか良かったー。 くすくすと十緒美は笑った。
「戸羊兄妹の仮装、面白いよ?ミイラ兄妹ー」
ノユノユはかわいいよ、ノユノユは。やたらと十緒美は強調した。やはりノイとはそりが合わないらしい。
「あ、悠。じゃあ俺行ってくるわ。」
後でお前も来いよ。言い残して、虎は十緒美と丘を下った。
ふう、とため息をつく。何だかひどくめまぐるしかった。
秋風が吹き抜けて、悠のローブをはためかせる。枯れ葉がくるりと舞い、落ち着いていく。その落ち葉の匂いを感じながら、悠は兄のことを思った。
彼の兄は、吸血鬼である。

彼の兄、柳は、元々は普通の人間であった。だがクリスマスの日に吸血鬼に襲われ、彼もまた吸血鬼となってしまった。会えない訳ではない。だが常に一緒にいるのは危険であるからと、兄は悠の元を離れ、廃墟と化したとある城に住んでいる。悠がシスターになったのは、その兄のためであった。兄が救われますように、と、神に仕え祈りを捧げる生活を、選んだ。

(兄さん……今日来てくれるかな。)
悠が寂しくないようにと、柳はことあるごとに悠に会いにきてくれていた。今年のハロウィンも、来て、くれるだろうか_____
「悠。」
刹那。不意に耳元で、聞きたかった大好きな声が、響いた。
「兄さん!!」
「悠、元気にしていたか?」
振り返って抱きつく。髪をくしゃくしゃと撫でながら、柳は悠に向かって微笑んだ。
「兄さん、今年も来てくれたの?」
「あぁ。悠、Trick or Treat?」
その微笑が、この世のモノではないと思うほど美しくて。 お菓子なんてあげないから、悪戯して。言いそうになって、慌てて取り繕う。
「あ、あああ、うん。悪戯されたら困っちゃうから、お菓子あげる、」
「そうか。じゃあ、貰っていくぞ。」
がくんっ
いきなり悠の視界が30°ほど傾いた。驚いて声をあげると、悠を抱きかかえながら、柳はにぃと笑う。 
「悠は何だかふわふわしてるし、お菓子みたいなものだろう?だから貰っていく。異論はないよな?」
えっいや、ちょっと待って!!
悠の制止を無視するかのように、柳は冷たい表情で悠を抱き上げて、その場から消え去った。


城に移動する。悠を見ると、祈るようにギュッと目をつぶり、両手を握って震えていた。おびえてる?
かわいいな。
「悠。目、開けて。」
声をかけると、悠はなおも怯えながら目を開いた。床に下ろしてあげる。
「に、兄ちゃん。いきなり何だよぅ」
びっくりしたよ。
悠はそう言ってため息をついた。俺に背を向け、部屋の中を見渡す。
「へぇ……広い部屋だなぁ…………こんなところで暮らしてたの?」
天井のシャンデリアや、古めかしい本棚などもくるくると眺めて回している。そんな悠の首筋に、俺は指を這わせた。
ふぇっ!? と声をあげた悠に、ローブをよけ、動くなと囁く。そのままぺろりと耳を舐めると、悠は小さく身を震わせた。
「あ、あぅ、兄さん、どうしたの?」
「悠……血、吸ってもいいか?」
悠は目を見開いた。
「え? 兄さんそれって、」
「あぁ。もう、我慢できないんだ___喰っちまっても、いいか。」
そ、それはだめ、だよ。
悠は泣き出しそうな声で言った。だめか?なおも聞くと、悠は涙目になってしまった。
「だ、だってぇ………俺、シスターなんだよ?聖職者、なの、だから、そういうことしちゃダメだよ……兄さんに血、吸われたら、ダメだよ、神様が、怒っちゃうよぉ」
俺は神様に仕えてるの、だから、ダメだよぉ。そんなことしちゃ、だめ、だよ。
潤んだ瞳が愛おしい。狂おしい。欲しい。
「すまない、悠。」
首筋に歯を当てる。悠は吐息を漏らした。
「兄ちゃん、だめ、だめだよ……だって兄ちゃん、俺弟だよ?俺ら兄弟だよ?ダメだよ、血なんて吸っちゃ、」
「ごめん。もう無理なんだ。」
かぷり。噛みついて血を、吸う。うああ、と、悠は色っぽい声をだした。
倒れそうになったので慌てて支える。どうしたんだ?まだ吸い始めたばかりなのに。
「ふあっ、あっ、あぁん、あ、やっ、やだぁ兄ちゃん、だめだよ」
悠は大きな声で喘いだ。俺は昔、どこかで聞いた話を思い出す。
俺ら吸血鬼に血を吸われる者は、微かな快感を覚えるものらしい。だが稀に、強烈な快感を覚える者もいるそうだ。よほど敏感でなければそうはならないらしいが___なるほど。
エロい体してるな、悠。  聖職者なのにな?
「あああっ、やっ、いやぁ、やだ、なんで? すごいきもちい、ねぇ、なんでなの、あっ、ああ、あぅ」
立っていられないらしい。回した腕に、悠の体重がもろにかかる。
「んぁ、ん、ふあ………ひゃ、ひぁぁ、やぁ、もうやめ、て、兄ちゃん……きがとおく、なる」
血を吸われているせいで意識が遠のいている。それに快楽が上乗せされて、悠はどんどん乱れていった。
だめ、だめぇ、やめて、兄ちゃん。 俺、お、れ、シスター、だよ? だめだよぉこんなの、兄ちゃん、兄ちゃん。
湿った声に欲情する。自らの瞳が、冷たい獣の朱に染まっていくのを、感じた。
ぴく、ぴく。悠の体がさっきから、震えてる。手をローブの隙間に潜り込ませて体をまさぐると、悠は面白いくらい敏感に反応した。もうそろそろ、血を吸うのはやめにしないと。悠が死んでしまう。
ぷは。牙を放すと、二つの傷口からつうっと血が垂れた。舐めとる。
悠はぐらりと崩れ落ちた。抱き寄せて、青白くなった顔に見蕩れる。
「悠、これからはずーっと………一緒だぞ。」
かぶりつくようにキスをした。絡んでくる舌、縋ってくる指。愛しくてたまらない。
逃がさない。

兄ちゃんは神父さんも似合うと思います。あと聖職者えろい。

2010/11/02:ソヨゴ


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