「おっも……」
「も、持ちましょうか勇李さん」
 平気平気と短く答えて、彼女はビニール袋を持ち直した。中には数本のビール瓶、それから日本酒、焼酎、ワイン、__それが両手合わせて四袋だ、さすがに女性にはきつい重量だろう。次辛そうにしていたら半分くらい持とうかなと、俺は六袋を持ち上げる。曲がりなりにも男だし、あと二袋くらいなら。
「っていうか珍しくないか? あの人がパシッてくるなんて」
「パシッ、__でもまぁ本当に珍しいです。大佐は買い物でも何でも、自分でしちゃう人なんで……」
 あの地位にいたならばもっと、部下をこき使ったってバチは当たらないように思う。思えば今まで一回も大佐に使われたことないような……蔵未大佐は、そういう人だ。これも人間性ってヤツかな。
「よりによってこんな重いモン、どういう風の吹き回しだよ」
「さ、さぁ。なんででしょうね」
「おまけに今日真夏日じゃんよ! 嫌がらせかよったく、くそ……」
 そう言う勇李さんの額には確かに汗が浮かんでいる。大粒の汗はキラキラ光って、何だか水晶のように映った。うなじから浮き出た汗はするりと流れ落ちていき、彼女の白く、細い首筋を、ゆるゆると伝っていく。俺は途中でハッとして、思わず顔を背けてしまった。__舐めとりたい、なんて。どうかしてる。
「でもその、もうすぐ着きますし!」
「そうだな、……結構楽しいし」
「え、辛くないんですか?」
 俺はまた勇李さんを見つめた。勇李さんは金髪をさらりと揺らして横を向き、上目遣いに俺を見る。か、かわいい。なんか、どぎまぎする……俺が戸惑っている間に彼女は、恥ずかしげに口を開いた。
「い、いや、だってその……小豆屋と、二人きり、だし……」
 勇李さんの両頬は、__恐らく暑さのせいでなく__ほんのりと朱に染まっていた。つられて俺も赤くなる。頬がかぁっと火照ってしまって、誤摩化すように手で顔を扇いだ。照れ、くさい。なんか恥ずかしい。
「あ、えと、その、よかった、です……俺も、」
「?」
「おっ俺も、勇李さんと、いますので……軍服だけど、暑くないです」
 あーっもう、かっこがつかない。自分でも分かってしまう。きっと真っ赤になっている。言わない方がまだマシだったか……隣から、声が聞こえる。「そ、そうか」、短い言葉。二人して同じ表情なことは何となく察しがついた。傍から見るとさぞかし珍妙だろう。二人そろってさくらんぼみたいだ。
「……あの、やっぱり持ちますよ半分」
「へっ? いっいいよ小豆屋、だってお前もう六袋も、」
「大丈夫、ですんで。少しはかっこつけさせてください。」
 言って、両手を差し出す。さっきかっこがつかなかったのでせめてもの挽回だ。彼女は大分躊躇していたが、やがておずおずと、ビニール袋を、俺の両手に一つずつ渡した。俺はそれを笑って受け取る。
「ごめん小豆屋」
「平気ですって! もう少しですし」
 再び歩き出そうとした俺はその瞬間に思い出した。大佐に言いつけられてきたのに、進展……できている気がしない。言いだせなかったことなんだけど、このお使いは実はその、大佐の計らいによるもので。

「小豆屋ぁお前さ、勇李とはどうなの」
「ど、どうってその、……というか最近それしか聞いてきませんね大佐」
「気になることそれしかないからな。少しは進展したかーお前ら。そうだお前ら、キスはもうした?」
「きっきききききすなんてそそそそんなこと、」
「お前本当耐性ないのな……しゃーねーな。だったらよ、用事言いつけてやるからさ」
「よ、用事?」
「そ、お前と勇李にな。だからお前ら、__デートしてこい」

 俺は少し考えてから、__荷物を全て、左手に移した。
「勇李さんっ!」
 先に歩き出していた彼女の背に呼びかけた。足を止め振り向いた彼女に、駆け寄って、右手を差し出す。勇李さんも、俺の意図に気がついたらしい。左手の荷物を右手に移して、その左手で、俺の右手を握った。
 思えば俺らは、手さえ繋いだことがなかった。
「行きましょうか、勇李さん」
「__おうっ!」
 照れくさそうに、嬉しそうに。勇李さんは笑ってくれて。それを見て俺は安堵する、__大佐、俺達ちゃんと、進展できました。

ABCのその前に。

 翌日、左手が筋肉痛になった。

お使いデートです。小豆屋はもちろん車道側歩いてるよ!
お借りしましたのは黒音様宅の「アニマ・メモリア」より、龍守勇李さん! うちの小豆屋の恋人になってくれためっちゃかわいい金髪つり目美人さんですうふふふふふかわいいですうふふふふふふ、色々語ると私が限りなく変態になるので割愛させていただきますけどね!!

2011/06/12:ソヨゴ
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