ふらりふらり、街中を行く。相変わらず色の薄い世界、いつものこと、僕の世界が鮮やかになるのは空君がいるその時だけだ。
 曇り空が余計に冷たい。肌寒さを感じつつ、ボクは商店街を歩いていく。あちこちで売り文句が聞こえたが、何となく、ボクには関係ないなと感じた。 この世界自体が、何となく。
「そこの兄ちゃん見てかないかい!? 新鮮野菜がいっぱいだよーっ!!!」
と、そこで声に呼び止められた。思わず立ち止まる。 青果店?
 うちの野菜はうまいよー、おばさんが親しげに続ける。買うものなんてと思いつつ商品を見れば、明るい赤が視界を捉えた。
「………おばさん 果物も おいしい?」
「ん?もちろんさ一級品だよ!!」
 渾身の営業スマイルで彼女は答えた。ボクは数秒考えた後、おもむろに財布を取り出す。
「じゃあこの林檎、3つ ちょうだい」


 家に帰って台所に立つ。紙袋から林檎を取り出し、眺めてみた。夕日がつやめいた表面を照らす。 うん、おいしそう。
 別に林檎が好きな訳じゃない。空君が好きなだけだ。空君が好きな林檎を空君が好きだから欲しいと思った、でも、ボクが食べてももったいないかも。
 作って、あげようかな。 空君に、林檎のお菓子。
「……でも、」
 ボクは料理は得意な方で、もちろん空君の作るお菓子だっておいしいけれど、多分ボクの方がおいしく作れてしまう。それは加減するからいいとしても、林檎を作ったおいしいお菓子___どんなのがあるか、よく知らない。いつも作るのはアップルパイで、それが空君の好物だってのは分かってる、でも、たまには違うの作ってみたい。
「___そうだ。」
 そこで彼のことを思い出した。異世界の友人。甘いものに目がない“にいに”、彼ならば、きっとおいしいメニューを知ってる。


「林檎を使ったおいしい料理?」
 聞き返す。春陽はこくっと、勢いよく頷いた。
「うん、ボク 空君に作る 喜んでもらいたい にいに、力を貸してほしい。」
「おおお、かわいい弟の頼みとあっちゃあ断れねーよ!よしよし、俺に出来ることなら何でもすんぜ?春陽。」
 ぽんぽんと頭を撫でつつ、俺はちゃっかり春陽に和んだ。いやー癒される、最近レポートだなんだ課題ばっかで疲れきってたもんだから、癒し効果が絶大だ。あーやべぇなかわいいな弟、柳の気持ちがちょっと分かった。 まぁ気に食わないけどな、悠くん。
「うーむ、林檎ねぇ………定番はアップルパイだけど?」
「アップルパイ以外がいい よく 作るから」
「そーかそーか。紅茶のシフォンケーキにシロップ付けした大粒の林檎をごろごろ入れると美味いぞー!!ベイクドチーズケーキもいいし、あああそうだコンポート!!ありゃ美味い歯ごたえあるし、ジャム作ってあげても嬉しいんじゃね?うーん、空くんが何好きか俺まだよく知らねーけども、トルテとかタルトとかオーソドックスなのもアリだと思う。」
 甘いものの話となると口の動きが止まらない、だって好物なんです、しかも春陽の頼みとあっては全力を尽くすしかないだろ!!
「あう にいに、結局 どれがいいのかな?」
「っと、だよなぁ。」
 にしたって、限度ってモンがある。ちょーっと並べ立てすぎたな、と俺は内心で後悔した。
「一番は………やっぱ凝ったのがいいよな?となると、シフォンケーキがおすすめだぜ。」
「シフォンケーキ! おいしそう それにする ありがと、にいに!!」
 ぴょこぴょこと跳ねる春陽がかわいい。お前はもーマジかわいすぎんぜ、そういいつつもふもふすれば、春陽は俺を褒め返してくれた。 かっこいい、なんて、言ってくんなくていいんだぜ?


「空君。」
「西野、待ってたよ。何作ってきてくれたの?」
 リビングで足をぶらぶらさせて待ってると、彼は窓から現れた。
「今切り分ける。台所貸して? 紅茶もいれるから。」
「ありがと西野。 茶葉の場所分かる?」
「もちろん」
 彼は一言残して台所へ消えた。西野の作る料理は美味しい。そりゃあお菓子作りは負けたくないけど____西野の料理が食べられるっていうのは、結構嬉しい出来事だったり。
 しばらくすると、彼は小皿を二つと紅茶を載せて、お盆をリビングに持ってきた。
 こと、こと。 静かにお皿をテーブルに置く。この色、この艶……シフォンケーキ?
 彼のいれた紅茶を飲む。琥珀色に輝いて、何だか宝石を溶かしたみたい。きらめいている。
「食べてみて?」
 ふわり。実に柔らかに彼は微笑んだ。あまり見れない表情に少しだけどきりとしながら頷いて、僕はフォークを手に取った。
「____美味しい。」
「そう?よかった。お菓子じゃ君には 敵わないけど。」
 言いつつ、自身も紅茶を飲む。何口か食べて初めて気付いた。………これ、
「林檎?」
「気付いた? 空君、林檎好きでしょ。街中で見かけたんだ。 君が食べるべきだと思った。」
 街中?あの市場のことだろうか。西野があんな所で、買い物をするなんて。あんな俗な場所嫌ってると思った。僕の為?林檎を買ったのは。僕だから?僕が、好きだから?
 好きなのが、僕だったから?
「………ありがとう西野。まぁもちろん、僕が作った方が美味しいけどね。」
「それはそうだね。林檎、そのまま渡した方がよかっ、」
「でも、」
 遮って、言葉を切る。少し黙り込んだ僕に、西野は促すように問いかけた。
「? どうしたの、空くん。」
「____自分で作るより、ずっとずっと“嬉しい”。」
 にっこりと笑いかければ、西野は珍しく頬を赤くした。その様子に僕まで照れてしまって、逃げるように紅茶を見つめる。
 ゆらりゆらりと湯気が揺れてる。 頬が熱いのは、そのせいだということにした。

アップルテイスト

15cm」さん家のムロさんの西野春陽くんと天岸空くんをお借りして、BL書かせていただきました。
西野くんマジ愛してる!!!にしそらぶ!!!みなさんぜひムロさん宅へ行って二人のかわかっこよさに悶えればいいと思います。そして西野くん大好き症候群にかかってしまえばイイノデス!!!
というかいきなり書いちゃってごめんなさい;;;問題あったら下げまする!!よかったらお収めくださいおろおろ

2010/01/28:ソヨゴ
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