「スズ、ちょっといい?」
友人の声に顔を上げる。 なぁに、また勉強してんの?亜由美は呆れたような声を出した。

アンバランスな放課後。

「今日は何?」
「現社だよ」
「うっひゃーまたしちめんどくさいのを」
マジメちゃんだねぇ。嫌みでも何でもなく、素直な感想として亜由美は私にそう言った。彼女のこういう言動は、出会った頃は当てつけか何かかと思っていたが___彼女はかなり単純で、そういう意図はないらしい。
「アタシレポートまだ出してないぜ?」
「当たり前でしょ?この前出たばっかりじゃない、」
「ちげーよ、前の単元の。」
うっそ。私は思わず叫んでしまった。 二ヶ月も前の課題じゃない。
「そーそー。何書きゃいいのか分かんなくてさぁ。」
亜由美は気だるげに、首筋に手を置く。今度は私が呆れる番だった。
「………卒業できんの?アンタ。」
「無理かもなー。ま、その時は家庭教師よろしく」
頼むよ秀才ちゃん。 ぽんぽん、と、亜由美は私の肩に触れた。私は払いのけつつ返す。
「今すぐ必要なんじゃない?家庭教師じゃないよ、脳味噌の入れ替え。」
「ひでぇなオイ。私ら親友でしょうがよー」
入れ替えちゃったらアタシじゃねーじゃん。 わかってるわよ、冗談でしょ。
「んもー、スズは辛辣なんだよぉ」
「あーたがだらしないからでしょうが。 あ、そうだ。アンタ私に用あったんじゃないの?」
「うわヤッベ忘れてた。」
いやさぁ、帰りマック寄ってこーぜってそれだけなんだけど。 亜由美の言葉に私は肯定を返す。 いいよ。
「じゃあもう帰る?」
「およ?勉強はいーの?」
「一段落ついたから。」
「おっしゃ!んじゃあ帰ろうぜ。」
亜由美は嬉しそうに机を揺らした。がたがたさせんな、顔をしかめると、いいじゃんと軽い返事が来る。
立ち上がり、跳ねるように歩く亜由美の後ろについて行く。亜由美の染めた金髪は目立つ。ピンクのメッシュはさらに目立つ。それでも見るに耐えるのは、彼女が美人だからなのか……やっぱり。
私はパッとしない女だ。
小中高とあだ名は「メガネ」。ガリ勉でマジメでおさげ髪で、色恋沙汰にはついぞ縁がない。クラスの人気者で、なおかつちょっとワルでチャラい亜由美と私は、あまり合ってないように思える。
けど、何でかな。
亜由美と私は、親友だ。
「亜由美ぃ、そのマスク取ったら?」
なんか、すごい威圧感。
つっつきつつ指摘する。亜由美は前を向いたまま答える。
「風邪引いたらヤじゃん」
「そんな理由だったの? ったくアンタってやつは。」
マック行くなら取りなって、不良に見えるよ。色々言ってみたのだけれど、亜由美は外そうとはしない。
「____せっかく美人なのにさぁ、」
「は?」
「隠してたらもったいないよ、亜由美。」
口に出してみると、今まで思っていた他のもやもやも、なんだか一気に、溢れでて来ちゃって。
「亜由美はクラスの人気者だし、美人だし、友達多いし、男子にも結構人気ある、じゃん。私ってなんか、地味だし、根暗だし、ぶっちゃけクラスで浮いてるし、なんか、その……釣り合わなくない?仲良くしてくれんの嬉しいけど、けどさ、なんか………無理してんなら、無理、とか、しなくていいよ。」
亜由美と一緒にいると楽しい。 けど。
亜由美は、どうなんだろうか。
優しくて明るい彼女の、同情じゃ、ないのか。
同情だとしても嬉しい、けど、無理してまで一緒にいてほしくはなかった。それに私と一緒にいたら、亜由美まで浮いちゃうんじゃないかな、とか、色々、考えたら止まんなくて。
聞きたくて聞けなかったこと。 こんな簡単に、零れちゃうなんて。
「___ばーか、勝手な思いこみで泣くなっつーの。」
亜由美は呆れたように笑って、私のメガネをそっと外した。 あーあ、汚れちゃってる。
「何言ってんのー?アタシがスズと一緒にいんのはスズと一緒が楽しいからじゃん、当たり前だよ。アタシの方がさ、バカでいい加減で能天気で、スズはアタシみたいの嫌いなんじゃないかなーって、」
「そっ、そんなことないっ!!」
「ホント?だったらよかった。」
アタシは単純なんだよ、と、亜由美は言った。 アタシは単純なんだよ。気ぃ利かねーから浮いてるとかも分かんねぇし。好きだから一緒にいんの。単純だよ、アタシは。
「それにさーぁ、」
「ふえっ!?」
ぐい。
亜由美は私の顔を挟んで上を向かせた。右手だけ退けてマスクをずり下げ、笑顔を見せる。
「スズ、美人じゃん。」
「___は、」
「泣かないのー。顔洗ってマック行こうぜ。」
亜由美は私にメガネを返した。 くるっと180°回転して、鼻歌交じりに歩き出す。私は数秒間、呆然とその場に立ち尽くしていた。
「…………美人、とか。」
ぶすっとしたまま、メガネをかけ直す。 美人、とか、軽々しく言いやがって。


そんなんだから惚れられるんだ。

ばんてふさんのお子さんをお借りして、短編、書かせていただきました。
名前や性格も決まってなかったとのことで、一枚絵を元に作らせていただきました。キャラ作るの楽しかったです(*´д`*) その一枚絵はこちら
金髪の子は園枝亜由美。ソノエダアユミ。茶髪の子は鈴乃理英。読みはスズノリエ、あだ名は「スズ」です。

2010/01/05:ソヨゴ
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