レンドが好きな人はちょっと注意。 あと何の愛もないけど男同士でキスしてるよ。カプとかはない。
『『おにーさんがいないよ』』
「へ?」
 驚いて振り返る。なるほど彼の姿はなく。
「っちょ、あいつどこ行った!!?」

シンジツcounting

「はぐれたんじゃねーの?」
 真白がかったるそうに言った。 うげぇ、と私は顔をしかめる。
「あんの方向音痴……五人いてはぐれるってどうなの」
『『だらしなーい』』
「最近なんかぼーっとしてねぇ?おにーさん。」
 真白の言葉に頷きを返す。 あの日以来、レンドはどこか上の空だ。
「まぁ、どうにかなるでしょ……とりあえず先急ごう。」
「うぃー。」


 クーデターなんてもんがいるから俺の仕事は減らないんだ、とカーティスは八つ当たり気味に考える。今日も取り締まり明日も取り締まり、何で人間の出来損ないに神を信じる善良な市民が時間裂かなきゃいけないんだ。
「うざってえぶっ殺してやる」
「せめてひっ捕らえて下さい、カーティスさん。」
 あなた今月殺しすぎです、と部下は言う。 死刑執行科の仕事でしょ、それは。
「外回りの体力もねぇお偉いさんなんか信用できっか」
「エリート集団ですよ、あそこは。」
「俺はあそこ蹴ってここに来たんだっつったろ」
「あぁ……そういえばそうでしたね。」
 何でここに来たんですか、わざわざ。 部下の問いに彼は答える。
「死ぬ覚悟で来てるヤツ殺したって何もすかっとしねぇ、捕まえて、絶望のうちに殺してやるよ。クーデターは害虫だ、生きてたって何の意味もねえ。」
「____殺すのは、僕らの仕事じゃありませんよ。」
「けっ、お堅い野郎だ。」
 カーティスはにやりと笑うと、拳銃を抜き取った。
「いたぞ……今日のターゲットだ。」


「もう…結局私一人じゃないの………」
 しばらく地図に集中して歩いていたらいつの間にか三人が消えていた。お腹でも空いたのだろうか。まぁいい、真白はテレポーターだ。いざとなったら合流できる。
 地図を畳む。もうすぐ目的地だ。
「____っと、そこのお嬢さん。」
 背後から声をかけられる。 振り返った私は、息が詰まった。
「なぁに固まってんのかな?てめぇクーデターだろ、ついてきてもらおうか。んだ?それともここで死にてぇか?どっちにしろ死刑になんだし俺はどっちでもいいぜー。」
 拳銃をくるくると回し、彼は皮肉な笑みを浮かべる。
「おい何とか言ったらどうだ?口利けねぇのかよ? どっか身体に風穴開けりゃあ一言ぐらいしゃべれるか?」
「あ……あなた……そっくり…………」
 そう。
 レンドと瓜二つ。
「そっくり?はぁ?誰のことだ?____ってんなこたどうでもいいか。」
 レンドより少し背が高い。声も低い。何より表情がまるで違くて………ぞっとする。彼もこんな顔できるんだろうか。
「……あなた誰?」
「クーデターごときに名乗る名はねぇよ、黙ってついてこいっつってんだ。どうやら……死にてぇらしいな、お前。」
「カーティスさん!」
 部下らしき青年が叫んだ瞬間、弾丸が頬をかすめた。
「っ、きゃ、」
 一瞬ひるんだ私に一気に近寄って、レンドによく似た顔した彼は私を思い切り蹴り飛ばす。 私は地面に身体を打ち付けた。痛い。
「おい顔上げろ。」
 倒れた私の髪の毛を掴む。
「っくぁ、」
「ふーん……顔はいいんだなお前。」
 銃口が目元をなぞる。身体が震え出して、止まらない。
「死ぬのが怖いか?クーデターのくせに?馬鹿か?てめぇら生きてる価値なんてこれっぽっちもねぇだろうが、罪人が。」
 谷間に銃が入り込む。金属の冷たさで背筋が凍る。
「ひ、ぁ、」
「でけぇ胸。お前、殺されねーかもしんねーぞ?」
売られるけど。
 彼の目はひどく濁っていて、冷たくて、だけどレンドにそっくりで、それが余計に怖くて、怖くて。
「っていってもまぁ…クーデターがのこのこ生き残るなんざ俺には許せねぇ話だしな、お前ら全員死ねばいいんだよ。安心しとけ俺が殺してやる。」
「や、」
 楽しそうに笑う彼。銃が額に突きつけられた。
「サヨウナラ。」

「Nice to meet you Mr.  How about you?」

 鼓膜をゆらす彼の声。澄んだ、空色のような。
「レンド!!」
「____よぅ、アーニー。」
 カーティスと呼ばれた彼は、意識を背後のレンドに飛ばした。その笑みはひどく歪んでいて。
「生きてたんだな死に損ない」
「アーニー?誰それ?そんなヤツ知らないなもう死んだんじゃない?」
 再び私は息が詰まった。 嘘。何て、冷えた声。
 怯える意識で思い出す。空は綺麗なだけじゃない____とても残酷な世界だってこと。
「なぁその子から手を離せよ、お前ごときが触れんじゃねぇぞ」
「はっ、アーネスト、コイツお前の女なのかよ?」
「そうだよ?俺の相棒だ、俺のモンに触ってんじゃねぇ殺すぞ」
 レンドは実の兄に向かってそんな言葉を吐き捨てた。見れば彼が突きつけてるのは、散弾銃で。_____え?ちょっと待ってよ散弾銃?え、待って、待ってそれそのまま撃ったら、 
 私まで死んじゃうじゃない。
「レ、レンド、それ、」
「おいおいアーニー、それそのまま撃ったらこの女死ぬぞ?」
「え?___あぁ、」
気付かなかった。
 心底どうでもよさそうな。 別にどうだっていいような。
「兄貴は散弾銃で撃つって決めてたんだよねーだってほらぐちゃぐちゃになるっしょ?でもまぁそうか、ボロウが死んだら困っちまうな。」
「会わねえうちにいい性格になったな、アーニー」
「あんたに言われたくねぇよ。昔から酷かったけどもう救いようねぇな。」
 救う気だってないけど。 素っ気なく。
「あと忘れてるようだがな、俺はこの女いつでも殺せるぜ?」
「分かってるっつの、お前が引き金引く前にその脳幹飛ばしてやるよ。」
 レンドじゃないレンドじゃないこんな声レンドじゃないこんな表情レンドじゃないこんな言葉浴びせたりしないこんな澱んだ瞳じゃない私の知ってる彼じゃない、違う、だからそう、彼は____アーニーだ。アーネスト・シザーフィールド。
 彼は散弾銃を放り投げた。代わりにピストルを抜き出す。
「ラクに殺してやったりしない、脳幹吹っ飛ばさなきゃあ人間って生きてるんだよな?だったら頭撃っても平気だな。」
「へぇ?このまま撃つつもりか?」
「本当は家族全員皆殺しにしてやりたかったんだよ、一緒にさ。 そしたらほら、寂しくないでしょ?」
 馬鹿にするみたくせせら笑う。 彼の兄は、横に放りなげるように私を放した。
 壁に背中がぶつかる。頭も打ってしまった。痛みに耐えつつ顔を上げれば、兄弟は立ち上がって向き合っていた。
「家族全員?てめぇごときがんな権利持ってるとでも?」
「権利?あんたらが決めた権利なんてどうだっていいよ」
「復讐のつもりか?」
「復讐?仕返し?定義なんてどうだっていいけど。あんたが目の前に存在してることが許せないんでとりあえず殺させていただきます、それだけ。」
 なんでよ。なんで。 どうしてよ。 あんたら家族なんでしょう?
「___っ、やめてよレンドっ!!!」
 思わず叫んでしまっていた。引っ込みがつかなくなって、私はさらに言葉を紡ぐ。
「あんた達兄弟でしょ!!?さっきから……さっきからなんなのよ!!!何でそんな、そんなのっ……私は、」
「悪ぃなボロウ、ちょっと黙っててくんない?」
 それは紛れもないレンドの声だった。その横顔も、いつもの彼と同じで。
「抑えが利かないんだ、思ってたよりやばいっぽい。憎くて憎くて頭おかしくなりそうだ、ボロウ、もしかしたら俺お前まで殺しちゃうかもしんない。だから____今は、黙ってて。」
「………今は殺せない。殺さない、ボロウの前じゃ俺はアーネストには戻りきれない、だからいいよ今は、今はね、でも____」
レンドは照準を頭から外し、無言で兄の手元を撃った。拳銃が弾き飛ぶ。
「殺しはしないよ兄貴、でもただでは帰さない、あんたは俺に会うたびに最悪な気分になればいい。」
「っ、ぐ……てめぇ、何する気でい、」
「すぐに分かるよ。」
 くすっ、とレンドは笑う。見たことのない笑い方。
 彼は背の高い兄の衿を掴んで引き寄せた。ぺろりとゆっくり唇を舐めて。 そして次の瞬間に、
 舐めとるようなキスをした。
「っ!?」
「____マヌケ面。」
 唇を離し、アーニーは愉しげに笑う。浮き立つような声を出す。
「兄貴ぃ、悔しい?ムカつく?怖い?気持ち悪い?嫌?嫌?嫌?ねぇ嫌?」
「……最悪だ」
「ソレ最高」
 突き飛ばすように手を放す。兄は数歩ほどよろめいて、静かにピストルを拾い上げた。
「この野郎………」
「バイバイ兄貴、地獄に堕ちろ。」
ボロウ、帰ろうぜ。
 振り返った頬が紅潮してる。私は怯えを覆い隠して、黙って小さく頷いた。

あなたに会えて嬉しいよMR. あんたはどう?どうなんだよ?

2011/01/20:ソヨゴ
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