栞田歴10年12月25日。正午。
前教祖栞田久遠演説内容全文。



 こんにちは、みんな。……ほら静かにして、話せないでしょ。うるせぇよ黙れつってんの。聞き苦しい声でギャーギャー喚いて君達って植物以下だね。……やぁっと黙った。お利口さん。
 今日はみんなにどうしても言いたいことがあって、来たよ。すぐ終わるから聴いてほしいな。植物以下の君達でも話ぐらいは聴けるでしょ? ほら、其処に生えてる雑草、口も開かずに立ってるよ? 何も豚の合唱を聴けっつってんじゃないんだからさ。耳貸してね。ほんの数分だ、……数分じゃ済まないかなぁ。なんせ君達に言いたいことはそれこそ山のようにあるから。君達の人生が終わってもまだ足りないくらい、ずっとずっと、永く永く、冥府の底まで追っかけて聴かせたってきっと足りない。恨み言が沢山あるの。呪いの言葉も文句も罵倒も。でも、いいよ。飲み込んであげる。今日は君達にプレゼントがあるんだ、__それは、お話の最後に分かるよ。
 真白許人って名前、知ってる?__知らないよね。みんなぽかんとしてる。間抜け面しやがってどいつもこいつも蜂の巣にしたいよ、ふふ、僕ひ弱だから、きっと機関銃なんか持てないなぁ。つまんない、つまんない。ねぇ僕がもっと強かったら此処に居るヤツらみんな殺せたのに。残念だなぁ。本当に残念。殺人鬼はいいなぁ、殺す才能があるんだもんね。お前らみんな轢かれちゃえばいいのに、押し潰されて頭砕けて粉々の頭蓋骨小腸によく似た脳味噌が道路一面に広がって、桃色。 綺麗なんじゃない? 今の面よりは。
 許人はね、聖人の名だよ。お前ら聖人も知らないんだね頭の中寄生虫居るの? まぁ君らがちっぽけな虫に脳味噌乗っ取られてたとしても僕は一向に困らないけど。とにかく、彼は尊い人なの。誰よりも優しくて、誰よりも綺麗な人だよ、……お前らなんかよりずっとずっとね。僕はお前らが大嫌い、僕のことも大嫌い、許せない、なんであの子が、なんであの子は死んだのにお前らはまだ生きてるの。__何でもないような顔をして。とぼけた顔してのうのうと生きてる。憎いったらないや、僕はまだマシだ、僕は僕がゴミ箱の中のクズの一つに過ぎないって知ってる。 お前らは、知ろうともしねえな。
 求めてばっかで恥ずかしくない? 愛してほしい? 褒めてほしい? 癒して構って遊んで抱いて、__くっだらねぇの。クズだよ、お前ら。求める前に君は与えた? 馬鹿なんじゃないの君達ってさ、欲を隠してるつもりなんでしょ、慎み深いつもりなんでしょ、自分は周りとは違うとか、思ってるでしょ、なんて恥ずかしい。裸に化粧して電車乗ってるみたいだ、君達ってさ、本当に醜い。自分は周りより可哀想? 自分は周りより頑張ってる? ふぅん? ご苦労様だねえ。だから愛してほしいだなんて、誰かに救ってほしいだなんて、愚か者、みんな同じだよ、みんな救われたいんだよ、お前が可哀想ならね誰だって可哀想なんだ、誰だって助けてほしいんだ、人一人救えないくせに植物以下の人間ども、僕は君らに癒されたことなど一度としてないけれど道端の花には癒された。ね、どうして生きてるの? なんで聖人ばかりが死ぬの? お前らが死ねばいいんじゃないの? ああ、疎ましいったら。馬鹿と痴呆と怠け者。どいつもこいつも死ねばいいのに。
 僕は憎しみでいっぱいなんだよ。こんなこと言ったってあの子は悲しむだけって知ってる、でももう無理、僕は耐えられない。お願いだから死んでください。お願いだから息やめてください。土下座でも何でもするから喉かっ切って死んでください。だけどさぁ、無理でしょ? 君達。自殺する度胸ないでしょう? 僕のために死ぬだけの信仰だってないくせに。あ、一人死んだ? そうですか。僕は名前も知らないや。
 そうだ、今日が何の日か知ってる? 知ってる訳ないよねえお前ら無知の集まりだもんな。なんて、僕もこの日のことは人に教えてもらったんだけどさ、__ビターチョコレート色の目の、心優しい軍人さん。あ、僕あの人は好きだな。あの人には死んでほしくないや。僕が幸せになれなかった分あの人には報われてほしい、……ああでも、お前らみたいなのが生き続けている限り、それも難しいのかな。
 今日はね、Christmasっていうの。その昔救世主が生まれた日。今では小さな宗教の馬鹿げた祭りに過ぎないけれど、昔は、この世界に住む大多数が祝ってたんだよ。だからさ、皮肉にはぴったりでしょう。__今日で世界は終わるんだから。
 最期に、言っておくけどね。君達は逃げるのをやめろ。立ち向かえ。見据えろ。逸らすな。僕なんかに祈りを捧げて満足だった? 頭沸いてるの? 僕は“神様”なんかじゃない。僕に祈りを捧げたところで自己満足だよ、どうせ分かってたんでしょ? 誰も救っちゃくれないんだから。自分のことは、……自分で、やらなきゃ。僕はもう逃げないよ。落とし前をつけるんだ、僕は、……はは、ちょっと怖いなぁ。どうせ僕には痛覚もないし痛みなんて感じないけど、__拳銃って、重いね。
 さようなら。僕は愛想が尽きた。みんなにも、この世界にも。だけど今日はクリスマスだもの、せっかくの祝祭だ、プレゼントぐらい、渡してあげる。……まっさらな世界を。このくだらない虚像に満ちた汚れきった世界ではなくて、__まっさらな世界を、君達にあげるよ。壊してあげる。だから、創れ。今日は救世主の誕生日。僕は、もういい。もういいよ。だから誰かこの世界を救って。どうにもならない世界を救って。もう僕や許人みたいな悲しい誰かを作らないでください。それができるのは、君達だけだよ。……君たち自身が、何とかするの。
 空しいや。僕という人物は何のために生まれついたんだろう。喪うため? 苦しむため? 悲しむため? 泣き叫ぶため? いっそそうであったっていいから、せめて悲劇で、終わらせないでね。みんな幸せになってください。野垂れ死になんてまっぴらごめん、__みんなが、幸せになれる世界を。僕は其処にはいれないけれど。ねえみんな、最期に僕は、一つだけ酷いことを言います。でも、それを受け入れてください。これは僕が17年の人生の中でたった一つ確かだと言える真実なんだ。みんな、もう逃げないでください。戦ってください。打ち勝ってください。さすれば僕の死にも意味はある、__きっと許人の死だって。 だから言うよ、

 “神様”なんて、いない。


こうして弾丸は彼を撃ち抜いた



「それじゃあね。バイバイ、みんな」
予想通りだったでしょう?

2011/12/25:ソヨゴ
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