TOP 真白くんが思春期です。下ネタっぽいこと言ってるんで注意。

「二人ってさぁ、どのくらい一緒に居んの?」
おねーさんは視線を宙に漂わせた。
「そうね……長い付き合いよ、もう十年くらい。」

カイコウflying

「へぇ、近所に住んでたとか?」
「いーえ。」
クーデターになってから知り合ったの。 おねーさんの言葉に、僕は目を丸くする。
「今22っしょ?ってことは、12の時にはもうクーデターだったの?早くねぇ?」
「アンタなんて生まれつきでしょーが。」
「そりゃまぁ、そうだけど。」
気になる。どんな風に出会ったんだろ。
「ねーどんな馴れ初め?」
「馴れ初め、って……意外。アンタでも、そーいうの気になるの?」
だって面白そうじゃん。返すと、大した話じゃないわよと、おねーさんは言った。
「まぁ……聞きたいってんなら、教えてあげるよ____」


「あ、ねぇねぇちょっと!!そこの男子!!」
茂みから声をかける。パーカーに短パン姿の彼は、無言で私を振り返った。
「あなたもしかしてクーデター?一人?あのさぁ、私今パートナー探してるんだけ、ど………」
転がるように茂みから出て、顔を上げる。 私の目に映った彼の瞳には、まるで光というものがなかった。
「パートナー?お前馬鹿じゃねぇの。」
「はぁ!?」
「お前クーデターなんだろ。一人で生きる覚悟くらい、したら。」
ムッときた。あまりに正しい言葉だったから。彼の口ぶりは、表情は、その覚悟を“しなければならなかった”者の、それだった。彼の重みが、正しさが、まだガキだった私には悔しかったのだ。
「別にいいじゃない、二人の方が好都合でしょ?」
「何で。」
「一人じゃ難しいことが楽にできるよ」
「一人が捕まったらどうすんだ?一人が見つかったら? 窮地に立った時に仲間を逃がせる自信、あんのか?」
ちっくしょ、ムカツク。
「何よさっきから後ろ向きね、そんなんで生きていける訳?」
「こっちのセリフだ。クーデターになるってどういうことだか分かってんのか、お前。そんなに楽天的でこの先生きていけんのかよ。」
付き合ってらんねぇ。彼は呆れたように呟いて、さっさと市場へ去ってしまった。食料かなにか盗むのだろうか。
「____何よ。」
引き下がれない。後、つけてやろう。

人ごみに揉まれながら彼を捜す。案外すぐに見つかった。果物屋の前だ。
彼は落ち着いた目で店主を観察している。店主は真横の主婦にセールストーク中だ。買う気配があるからか、大分熱心。
そのスキに彼は、リンゴを二つ盗み取った。誰にも気付かれずに五歩ほど歩いて、人混みを抜ける。そして次の瞬間、全速力で走り出した。
「ん?……あってめぇ待てコラ、そこのクソガキ!!!」
店主が気付いて大声をあげる。誰か取っ捕まえてくれ!! 彼は捕まえようと伸びてくる大人達の腕をすり抜けて、路地へ入った。けれどもその直前に、一人の男の手が彼の腰に伸びて、ぶら下がってるゴーグルをもぎ取った。
「ちっ逃げられた……そのゴーグル俺にくれ、売り飛ばして足しにする。」
店主が男に手を差し出した。男は頷いてゴーグルを放り投げる。宙に浮かんだゴーグルを見ながら、私はチャンスだ、と思った。
これは彼を見返すチャンス。
「____ちょ、オイガキ!!」
助走して、ジャンプして、宙に浮かぶゴーグルをキャッチする。私は着地からすぐに疾走に移って、彼が消えた路地に滑り込んだ。

「ねぇちょっと!!」
これ、探してるんでしょ。
彼を呼び止めて、ゴーグルをふる。彼は私に気付くと、黙り込んだままゴーグルを奪い取った。
「ちょっとぉ、お礼は?私大人達からそれ、取り返してきてあげたのよ?」
「………サンキュー。」
「別にいいよ、そのリンゴ一個くれればね。」
彼は途端に顔をしかめた。物々交換、でしょ。私がなおもねだると、彼は渋々といった様子で私に一つ、リンゴを手渡す。
「ありがとー!」
リンゴにかじりつき、その美味しさに小躍りする。実を言うと二日ほど、何も食べていなかった。彼はそんな私をよそに、取り戻したゴーグルを大事そうに撫でている。
「……よかった……失くしたらどうしようかと、思った。」
「はにほへ、はいひなほんはほ?」
「食いながらしゃべるんじゃねぇよ。」
彼は呆れ顔でため息をつき、答えた。 大事なモンだよ、親父の形見。
「っとまずい、ため息ついちまった。」
「そうそう、ため息つくとラッキーが逃げちゃうよー?」
「え?」
彼は目を丸くした。 いきなりのことに私は戸惑う。
「あれっ?よく言うじゃない、『ため息をつくとラッキーが逃げる』って。」
「あぁ、言う、言うよな……」
彼はふい、と目を逸らし、数秒間、黙りこくった。沈黙が気まずくて話しかけようとした瞬間、彼はパッと顔を上げ、私の目を捉えて、言った。
「お前さぁ____タッグ、組みたい?」


「……おにーさん性格変わった?」
「元に戻ったんじゃない?家出る時に色々あったみたいよ。」
詳しくは知らないけど、と、おねーさんは言う。
「あーっ疲れた!!もうムリ!!交代して!!」
おにーさんが寝室に倒れ込んできた。床に寝そべり、無言で腕を上げる。
「ボロウ、バトンタッチ。」
「はいよ。」
ぱんっ。小気味よく音が鳴る。おねーさんはベッドから立ち上がって、ガキどものいるリビングへと向かった。
「おねーさん、案外すんなり懐かれたよなぁ」
「そーそー。良かったよ本当、ミーシャとミーファが怖がらないでくれてさぁ。」
あーもう。おにーさんは床から起き上がると、仰向けでベッドに身を投げ出した。両手を頭の後ろに回す。
「何あの子達……元気よすぎ。」
「遊びたい盛りだろぉ、我慢しろよ。」
「それが頼んだ側のセリフ?」
まぁかわいいんだけどね、二人とも。 おにーさんは疲れきった様子だ。
「にしたってね……おっさんにはついてけねぇわ……」
「まだ22っしょおにーさん。」
「20過ぎたらおっさんですよおっさん。」
僕はそんなおにーさんを見つつ、少しだけ気まずさを感じた。さっきおねーさんが言っていたこと、すごく気になる。気になるけど、さすがの僕でも聞きづらい。
『家出る時に色々あったみたいよ。』
「____おにーさん、さぁ。」
「んー?どした。」
「本当の名前、なんてーの?」
レンドって、偽名じゃん。 尋ねながらも心苦しくて、俯く。
「………知りたいのは名前じゃないだろ。何?ボロウになんか聞いた?」
俺ん家のこと、知りてぇの? うん、図星。
「お前が遠慮?似合わねー」
「だって言いたくないだろぉ、そんなこと。」
「まぁな、思い出したくもねぇよ。」
ほらやっぱり。 所在なくて、仕方なしに指をいじくる。 イヤなんじゃん。
おにーさんはそれには答えずに、目を伏せた。何かを思い出すように。

大好きな母。慕っていた姉。仲の良かった兄。大事な家族。 その拒絶。
忘れたい、忘れられない。あの日感じた全ての痛みは今も鮮明で、剥がれない。けれでもあれは、過去のこと。俺が捨てきれないだけの話。こんなんだから俺はきっと……甘っちょろいままなんだろう。
あの日俺は家を出た。別れを告げる直前に目に留まった、親父の形見。
親父なら。死んでしまった親父なら、______俺を拒絶したりはしない。
亡き貴方が唯一の家族。

「____こんな世界だ、しょうがねぇだろ。どうしようもねぇよ、どうしようもない、どうにもならない、それだけの話。面白くも何ともねぇぜ。」
「……うん、ごめん。」
許人の言葉に俺は相当、驚いた。 謝った?許人が?
「うっわ録音しときたい、つかしとけば良かったなくっそ、」
「何ソレ。まるで僕が非を認めない人間みたい」
「まず悪いとも思わねぇだろ?」
大概ね、と許人は悪びれもせず言った。 僕はやりたいようにやってるだけだし。
「あぁそーだおにーさん、もひとつ気になること、あんだけど。」
「ん?」
「二人の馴れ初め聞いたんだぁ、さっき。あのさぁ、何でタッグ組もうと思ったの?」
結構いきなりだったじゃん。 許人はベッドを軋ませる。
「あー……いや、単純な話だぜ。」
俺はゴーグルに手をやりつつ、答える。
「『ため息つくとラッキーが逃げる』……ってさぁ、親父の口癖だったんだ。」
「へぇー…運命、感じちゃった?」
「感じちゃったな」
ふぅん、なるほどねぇ。 許人はニヤニヤと笑う。
「え?何にやけてんの? 言っとくけど、俺ら別に恋人じゃねーぞ。」
「はぁ!?」
うっそ。 許人は愕然といった様子だ。
「十年間も一緒にいんだろ……?」
「そうだけど、普通に相棒だし。」
「いや……男女が十年一緒にいて、何もないとか信じらんない………」
え、何、そんなに変? 焦りながら尋ねると、許人は首を縦に振った。
「おかしーよ絶対……僕はてっきりヤってるものだと、」
「ちょっやめろよ変なこと言うの!!」
俺は飛び上がるように上体を起こした。許人は気にする風でもなく続ける。
「十年間となりで寝てて、本ッ当ーに何もなかったの?」
「え……それ、言わなきゃダメ?」
なーんだやっぱりヤってんじゃん。 許人は安心したように言った。
「何でお前はそういうこと平気で、あー……」
うなりつつ頭を抱える。許人は身を乗り出した。
「ねぇねぇおねーさん巧い?」
「お前何聞いちゃってんの!?」
「恥ずかしがんないで教えてよ」
「教えるワケないよね!?馬鹿なこと聞いてくんじゃねーよ!!」
顔が赤くなるのが分かる。俺はこういう話題は苦手だ。 許人は俺のベッドに移って笑った。 照れてる?照れてんの?
「これが照れずにいられます!?」
「キスは?どんな感じ?激しい?」
「何で興味津々なんだよ思春期か!!あっ思春期か忘れてたくっそ、」
許人は嫌がらせみたいに顔を近づけてきた。俺は許人の速さに合わせて、逃げる。
「いーじゃん教えてくれたって。おねーさん巨乳だし揉みがいありそう。」
「なっお前なに言って、」
「おにーさん顔真っ赤だよ。案外ウブだね。」
「ちっくしょ……このクソガキぃ………」
ガキの癖にませやがって。 俺は内心で悪態をつく。
「もう勘弁してくれ……」
「えー何も教えてくれてねぇじゃん。 せめて巧いかどうか、教えてよ。」
うわぁものすごく言いたくない。 かと言って、言わなければまた質問責めにされるだろう。それはちょっと……恥ずかしくて耐えられない。
「_____巧いよ。」
「………へぇー、巧いんだ、ふぅん。」
によによによ。許人の笑みが非常にムカつく。殴り飛ばしたい。
「笑ってんじゃねぇよクソガキ……」
「そんなこと言っていいのおにーさん。僕おねーさんに言っちゃうよ。」
「えっちょっ待て、」
「ねぇおねーさーん!!」
「やめろおおおおおおおおおお!!!」

レンドの過去とか本名とかは後々ちゃんとやりたいです。

2010/12/20:ソヨゴ
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