TOP If God did not exist, it would be necessary to invent Him.
        ____もし神が居ないのならば、作り出す必要があろう。

ハジマリkilling

「なぁ見ろよ。ほら、あそこ。」
 ボロウに呼びかけると、彼女は面倒そうに振り向いた。
「何?」
「んーいや、見てみりゃ分かるって。」
 ほれ、と双眼鏡を手渡す。彼女は受け取って覗き込むと、すぐに双眼鏡を放り投げた。
「見てらんない。」
「だろ?」
 双眼鏡を受け取って、また覗く。
 レンズに映っていたのはどこかの宗派の軍人、囲まれる少女。
「どこの宗派?」
「さーね、あの軍服を見ると栞田教っぽいけど。」
「栞田教なわけないわ。あそこは戦争中でしょ。あんな小さな子に構う余裕ないわよ。」
「んま、そーだろーね。」
「で、どうしたいわけ?」
 ボロウがショットガンを構えつつ言った。へっ、乗り気なくせして。
「モチのロン____蹴散らそーぜっ!!」

「あの……ありがとうございます。」
 少女はぺこり、と頭を下げた。
「礼ならいらない」
「おう、気にすんなー」
 二人で答える。辺り一面には倒れ伏した軍人達。
 全部二人でやったのだ。
「…この人達、死んだんですか?」
「いんや。気を失ってるだけだぜ。」
 ×すのは趣味じゃないんだ。
 にっ、と笑いかけた俺に、少女は言いにくそうに問いかけた。
「お兄さん達は……“クーデター”、なんですか?」
 …………やっぱりか。
「……そうだよ。君はどこの宗派?」
「えっと___」
「いいや。言いにくいなら言わなくていい。」
 興味もないし。
「じゃ、俺らはもう行くよ。」
 ____あとで通報されるんだろうな。
 ため息をつきそうになったが、なんとか堪えた。ラッキーが逃げちまう。


「よぉ、栞田。」
 ぞくり、鳥肌が立った。鳥肌が落ち着くのを待って、俺は口を開く。
「久々だね、真白。」
「何ヶ月ぶりだろうな? 久しぶり、栞田。」
「何の用だよ。 “クーデター”の君が、宗派の本拠地に。」
 分かり切ったことだけど。
「んなもん、×しに来たに決まってる。」
 薄く笑うのが分かる。そろそろ振り向いてもいいだろうか?いや、下手に動いてはいけない。
「“クーデター”に殺されんのは気分悪い? みんな僕らが嫌いだな、すげぇムカつく、僕はお前ら“カミサマ”を信じたくねぇだけなのに。」
「俺は、……迫害なんて、してない。」
 そうだね、と彼は言う。 知ってるよ。だから殺す。
「そーいや栞田、戦争はどーなの?お前のせいで色んな人が死んでんよ、どう、気分いい?」
「___戦争してんのは、俺のとこだけじゃないでしょ」
「ま、他にも戦争してる宗派はあるね。でも関係ねーよそんなの。お前だってしてんだろ?」
 腹立つのは、分かるんだけど。何も殺しに来なくたって。
『お前みたいのがいるから、“クーデター”の人達も危険視されるんじゃないの。』
 言ってやりたかったが、何をされるか分からないので、黙っておく。
「なぁ、栞田。“カミサマ”ってのは気分いいのか?」
「いいワケないだろ」
「____お前、そういうとこは、変わってるよなぁ。」
低めの声で真白が言う。僕は特に気にせず言い返した。
「第一、君は何だかんだ俺を殺せないんだろ。」
「今のままじゃ、な。でもいずれ殺すよ、僕はちゃんと殺すんだ。」
 拳銃がガチャリと音を立てる。
「なぁ、引き金を引いちまえば一瞬だぜ?」
後頭部に鋼鉄の感触。突きつけられた。
「そうだな……でもそれは、君のプライドに反するんだろ?」
「まーな。僕はお前に痛みを感じながら苦しんで死んで欲しいんだ。」
 お前の為にも、な。真白はそう言って笑った。
「でもそれは……今の君では一生無理だ。」
 なぜって俺は___痛みを感じることなど、出来ないのだから。
「………うるせぇ。」
 チッと舌打ちして、真白は銃口を反らした。
「いつかぜってぇ×してやるからな。そん時は大人しく死ねよ。」
「やなこった。抵抗くらいするさ。」
「言ってろ。さぁて、お前の大事な信者サンをちょっくら×してから、帰るとするか。」
「好きにすれば」
「____相変わらず、薄情な“カミサマ”だな。」
 じゃーな。
 そう言い残して、真白は消えた。
「真白___君はどこへ行こうとしている?」
 あの約束だけは忘れるなよ、真白。
 何も信じるな。絶対に。

「大佐ぁーー!!」
 少し遠い距離から呼びかけると、大佐は煙草を吸う手を止め、こちらを向いた。
「なんだお前か、小豆屋。」
 名を呼ばれたので、駆け寄って敬礼する。
「大佐!休憩中ですかっ!」
「見りゃ分かるだろ?」
「はいっ!見れば分かりますっ!!」
 答えると、大佐は楽しそうに笑った。
「ったく、お前はいっつもどこかしら、気合いの入れ方を間違えてるよな。」
「そうですか?」
「ああ。変わったヤツだ。」
 大佐はタバコをまた一口吸うと、思いついたように言った。
「お前も一本、やるか?」
「あっいえ!せっかくのお言葉ですが、健康に悪いですから!!」
 またもや敬礼しつつ答えると、大佐は苦笑じみた笑みを浮かべた。
「健康、な……軍人ってのは早死にするものだって、相場が決まってんだろ?」
 大佐は若くし定例の出世をなさった方だ。俺みたいな下っぱにも目をかけて下さるし、ひとたび戦場に出れば、鬼神のごとき働きをする。
 俺の憧れだ。
「大佐は、死にたくないとは、思われないのですか?」
 恐る恐る聞いてみる。気を悪くなされないと、いいのだけれど。
「そりゃ、長生きできりゃ一番だけどな。」
「ではなぜ大佐は、死を、恐れないのですか?」
 大佐はちらと横目で俺を見ると、タバコを踏みつぶし、俺に背を向けた。
「俺は、一生を軍に捧げた。それだけだ。」
 言葉を失い口ごもる俺をよそに、大佐は宿舎へ戻って行ってしまった。

「_____皮肉だな。」
 俺のすべてを奪っていったこの場所が、今では俺の全てだなんて。
「小豆屋……俺みたいになるなよ。」
 お前はまだなにも、失ってはいないのだから。

新しく始めてみました。私の軍人萌えが暴走する予定です。

2010/08/30:ソヨゴ
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