暴力描写注意、R-15。
レイゾクscoffing


 彼は首筋を這う生温さをいつになく冷たく見下していた。と言っても、彼は彼女に対してはいつもそんな態度でいる。彼はベッドに押し倒され、軍服のボタンが外されていくのを興味無さげに眺めている。脱がされているのは、彼自身だが。
「ねぇ」
「なに」
「ボクとイイコトするの?」
 彼が答えないままでいると彼女は実に嬉しそうに笑って、言う。ボクは君が大好き、好き、好き、抱いて、犯して、ヤッて、切って殴って刺して殺してヤッてヤッてヤッてヤッて、嬉しそうに嬉しそうに言う。彼はその全てを無視した。代わりに、彼女のうなじへ手をやる。撫で上げるように滑らせて、彼女の細い髪の毛に、自らの、骨張った、しかし整った指を埋める。自らの指を意識するとき彼はいつも「彼」のことを考える。あの人形のような指。彫刻のような指。彼は「彼」の顔自体が端整なことも認めていたが、しかしそれ以上に「彼」の手の美しさの方を認めていた。心底、尊いと思っていた。彼は「彼」に対しては友情以上の感情を抱いたことなどなかったが、こと彼の手に関してだけは、少々事情が違っていた。絡めたい、と思ったことがある。切り落としたいと思ったことも。もちろん、本人に伝えるはずもない。
 人は誰でも悪魔を飼っている。天使と、悪魔と、自分自身が、一人の人間の脳味噌にそれぞれ棲みつき共存している。男の場合は加えて一つ、獣もそこに棲んでいる。それは彼とて例外ではない。皆、そうであるのだから。悪魔と獣はしばしば交わる、融け合って襲いかかってくる、今の彼もまたそうであった。そして天使と自分自身は、何があっても交わりはしない。もし融け合ってしまったら、もうそれは人間ではない。
 加虐心と暴力とが今の彼を占拠していた。いつもの優しい彼であったら彼女を拒絶して“あげた”だろうが、今の彼はそうではない。彼は彼女を利用するつもりだ。彼女は、彼に隷属したがる。そのことを、彼はとっくに知っている。
「ねぇ」
 女は彼の頬に手を置いた。彼はその手に従ってようやく彼女と目を合わす。彼女の惚けた表情に嗤い出しそうなのを堪えて、__もし嘲ったならきっと彼女は喜ぶだろうから__無表情のまま彼女を見つめた。李伶、と、唇だけを動かす。
「なぁに」
「俺に何されたい」
「全部」
 めちゃめちゃにボクを支配して。
 答えの分かりきった問いかけであった。男はぺろりと唇を舐めて、馬乗りになった彼女の腹を膝で思い切り蹴り上げる。彼女は大量の唾液を吐いて崩れ落ち、彼の上に倒れた。彼は彼女の後頭部に爪を立てながら起き上がる。そうして一人ベッドの上に立ち、座り込んだ彼女の顔を、横から軍靴で、蹴り飛ばす。
 犬のような声をあげて彼女は床へ転げ落ちた。彼はベッドの上から降りる。床で呻く彼女を見下ろし、仄かに笑う。おそらく彼の「戦友」は、見たことのない表情で。
「脱いで」
 彼女の傍まで寄ると、仰向けになった彼女に向かって彼は一言そう告げた。女は嬉しそうに頷いて起き上がり、軍服を、__彼の軍とは違うデザインのそれを、__上からゆっくり脱ぎ始める。女がボタンを五つ開けたところで、男は女の子宮の辺りを軍靴で踏み付け体重をかけた。彼女は小さく悲鳴をあげる。 嬌声を。
「あぁ、ああう、ぁ、」
「早くしろよ」
「あぁ、痛いよぉ、ボク子供産みたいのにぃ……君の子供、ね、産みたいの」
 男は表情一つ変えずに再び踵を叩き付ける。
「あぁあぁぁっ、ぁ、ぁは、ぁは、いたい」
「話聞いてた?」
「ああん、ぁ、怒ったぁ? ごめんねぇ、ぁあは、ちゃんと脱ぐよぉ」
 彼女は残りのボタンも外し、脱ぎ捨てる。下着は付けていない。彼は彼女から足を退け、座り込む彼女の正面に屈んだ。
「李伶」
「なぁに、なぁになぁになぁに」
 蕩けた瞳で喜ぶ彼女の後ろ髪をぐっと掴んで、彼女に無理矢理天井を向かせる。起伏のない滑らかな喉に舌を這わせて、絹のような肌だと思う、デザートのような女、甘い、甘ったるい、気味が悪い、だが時々無性に喰らいたくなる。彼は喉仏に歯を立てて、噛みついた。血が流れ出して彼女は喘ぐ。歯は皮膚を噛み切った。
「あぁう、痛い、痛い、」
「痛い?」
「痛いよぉ、痛くてキモチイイ」
 女は恍惚としている。男は耐え切れなくなって短く短く声を上げ、笑った。彼女の髪を未練なく放して彼女の上に乗る。彼女の整った顔は今はだらしなく緩んでいる、頬が紅潮し瞳は融けて、彼をみている、愛する人を、沢霧章吾という名の銀髪の青年を。彼女は彼に愛してほしい。彼女は彼を愛している。彼女の右の前髪にはメッシュのように一房銀髪がある、それは以前彼の髪を切り取ったもので、彼女は彼の髪が欲しかった、同じ色に染めようと思ったが彼の色が地毛だと知って、自分の頭皮に「縫い付けた」。彼女は彼女を全く愛していない彼のことも愛していたが、もし彼が彼女を愛してくれたらことをもっともっと深く愛せる、そう思っていた。沢霧にとっては、まるで興味のないことだ。だが彼は今日彼女が望む通りのことをして“あげる”つもりだ、そして彼は耳元で囁く。 李伶、犯してあげる。

李伶・アルル・ベルレイン。沢霧のことがだぁい好きな、キチガイさん。

2011/07/17:ソヨゴ
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