『『お兄さん』』
返り血を手の甲で拭う。ガキの声を無視するか、否か。

バケモノsmiling

「んだよ、ガキ。」
少し迷ってから振り向くことにした。姿を捉えてぞっとする。気持ち悪い。
『オレはミーファ』
『ワタシはミーシャ』
『『お兄さんは、誰?』』
エコーがかかってるみたいだ。どこから聞こえてきたんだ?今の声。方向感覚が狂う。
「____見りゃ分かるだろ。僕は人殺しだ。」
文句あんの?
吐き気を堪えて睨みつける。汚い訳じゃない、むしろ見目はいい方だと思う。ただ、おぞましいんだ、コイツら。
『そう』

『そっか』

                                                                『正直な人』
             『素直な人』
『『怖くないの?』』
目の前にいるはずのガキ二人の声は、右から左から斜め後ろから真上から、てんでんばらばらに反響して聞こえてくる。くらくらする。
うざってえ。
「怖い?てめーらがか?んなワケないだろ気持ち悪い。僕はてめーらが嫌いだ、これ以上僕に絡んでくるならぶっ殺すぞ。」
チェーンソーが音を立てて回転し始めた。……ん?あれ?何かおかしくないか?
僕、スイッチなんて入れてないのに。
『『怖くない?』』
二人はきょとんとして言った。
『怖くないの?』

『ボクらが?』

『『何で?』』
ちっ、めんどくせーな。何でなんでって疑問ばっかし。これだからガキは嫌いなんだ。
「理由なんかあるかよ。怖くねぇから怖くねぇ、それだけ。うざいよお前ら、ぶっ殺すぞ。」
苛立をぶつけるように吐き捨てる。と、二人はなぜだか嬉しそうに笑った。
今までの不気味な様子とは違う、普通の子供のような笑顔に嫌悪感が増す。二人は満面の笑みで俺に飛びついてきた。
『『見つけたっ!!』』
「っ、は!?」


目が覚めた。空の青がまぶしくて、目を細める。
夢?
倒れてるのは夢の中と同じ道路だ。でも夢の中とは違い、この世界には色がついてる。
夢の中はモノクロだった。僕とあのガキにしか色がついてなくて_____そうだ、あのガキは、
『『ここにいるよ』』
ぬっ、と視界に二人の顔が入った。覗き込まれたのか。
「……どけ。」
命令すると、素直に二人は身を引いて、正座した。起き上がる。
「てめーら、僕に何をした。」
『オレらの世界に来てもらっただけだよ?』 男のガキが答えた。夢の中と同じくエコーはかかったままだが、普通に、左から聞こえてきている。
「あっそ。最高に不愉快だ。」
まあつまりあれは………夢じゃなかった、のか。
『ねえお兄さん、何でワタシたちが怖くないの?』
女のガキの方が尋ねてくる。僕は首を180°回して、ガキの目を見た。
「だから言ったろ、理由なんかねーよ。気持ち悪いなぁ絡んでくんなよ。」
僕はもう帰るぞ。そういって立ち上がったらシャツの袖を掴まれ引き止められた。
放せよ。言っても首をぶんぶん横に振るばかり。殺してやろうかとも思ったが、なんとなくそーいう気分じゃなかったのでやめておく。僕はあぐらをかいて座り直した。
「……てめーら名前は。」
『『さっき言ったじゃん!!』』
あれ、そーだっけ。
「興味ねーことは忘れるタチなんだよ。」
ひどいよー、と二人はため息をついた。イラつく。
『ワタシはMisha。Misha・Tailroad。双子の姉!!』
『オレはMifa。Mifa・Tailroad。双子の弟!!』
ったく、イヤな響き方する声だなあ。どうにかなんねーのかよ……もう慣れたけど。
「あーハイハイ、ミーシャとミーファな。んで、ガキ二人が殺人鬼に何の用?」
『『食べようとしてた!!』』
真に明るく、元気いっぱいに姉弟は言った。
「は、はぁ!?」
さすがに驚いて聞き返す。姉弟はとても嬉しそうだった。
『ワタシたち、オニなんだよ』
『でも怖がってる人しか食べれないんだ』
『お兄さんは怖がらなかった』
『だから食べられなかったんだ!!』
コイツら、やっぱ人間じゃなかったのか。そうと分かれば別に、気持ち悪いとも思わない。化け物なら別に問題ない。
つかいるのかよ鬼なんて。一瞬そう思ったが、考え直した。そーいや僕も超能力者だ。
「………ん?じゃあどうして食えなかったのに、お前らそんなに嬉しそうなんだよ?」
姉弟は待ってましたとばかりに身を乗り出した。
『『だってだって、初めてなんだよ!?』』
「は?____怖がらなかったのが、か?」
『『そう!!』』
へぇ。確かに初めて見た時はなんておぞましい奴らだと思った。けど、別に怖くも何ともない。ただのガキだ。
『『だから、なかよくなれるかなって。』』
おい待て、どうしてそうなった。
「ちょっと待て、僕はてめーらと仲良くなんて、」
『『だって、怖がる人とはなかよくなれない。』』
しゅんとした様子で二人は言った。
『怖がる人は食べちゃうんだもん』
『別に二人っきりでもさびしくないけど』
『三人の方が楽しそうなんだもん』
『二人ぼっちだとつまんないんだもん』
正直、コイツらのことなどどうっだっていい。早く家に帰りたいし第一僕はガキが嫌いだ。かわいそうとか淋しそうとか僕には全然関係ない。面白くないことは、大ッ嫌いだ。
じゃあ殺してさっさと帰っちまうか? そうじゃない。
僕はコイツら自身に興味があんだ。
見てて楽しい。楽しいヤツは、嫌いじゃない。
「まぁ、どうしてもってんなら………仲良くしてやってもいーぜ。」
けどつきまとってくんなよ。一言付け足す。うざったいのは大嫌いだ。
『『本当!?やった!!』』
お兄さん優しいね。二人は楽しげに笑いながら言った。いらっとしたので頭頂部を殴る。
二人は頭を押さえて涙目になった。
『『お兄さん乱暴だよ!!』』
「うっせぇ。びーびー泣くなよ、泣き虫は嫌いだ。」
うぅ、と二人はすねたように呻いた。だって、痛いよすっごく。
「うっせーなー、痛くなくなりゃいいのか?」
ぽん。両手をそれぞれ、二人の頭頂部に置く。
いたいのいたいの飛んでけー。抑揚なく歌うと、二人は嬉しそうに笑った。
『そんなんじゃ飛んでかないよ!』
『もっと大声で歌ってよ!』
「っち、分かったよ。いたいのいたいの飛んでけー!」
わしゃわしゃと、乱暴に二人の頭を撫でながら歩く。二人はスキップでついてきた。
『どこ行くの?』
「僕の家。あ、お前らは?」
『『ついてく!!』』
マジかよ……まぁ、一人でいてもやることねーしな。いっか。
「まーいいけど……うざってえことすんなよ」
『『やっぱお兄さん優しいね!』』
「うっせぇまた殴るぞ」
手を放して握りこぶしを作ると、二人はあわてて頭を守った。面白ぇ。
『そーいえばお兄さん、名前はなんていうの?』
「あ、言ってなかったなそーいや。真白だよ、真白許人。」
『『マシロ?』』
「そう。呼び捨てにしやがったら喉元かっ切るからな。」
じゃあ、マシロおにーさんって呼ぶ。ミーファが手を上げて言った。
「好きにしろ。馴れ馴れしくなきゃ何でもいい。」
『じゃあ、マシロさん?』
「何でもいいっつってんだろ……あーそうだ、お前ら飯いらないよな?」
時計が目に入ったので、聞いてみる。すると、猛烈な勢いで姉弟が反抗してきた。
『『えっ食べないの!!?』』
「は?お前らいつも食べてんのか?」
『『普通食べるものでしょ!?』』
いつも抜いてんだよなあ、めんどくて。呟くと、二人は顔を真っ青にした。
『倒れるよ絶対!!』
「は?倒れねーよ僕は。」
『お昼ご飯は食べなきゃ駄目だよ!!』
うざってぇなぁ、僕に指図すんなよ。大体、
「お前ら人間の飯で平気なのかよ?」
『『全然平気。むしろ主食。』』
お前ら本当に化け物なのか?
「はー……お前ら何が食いたいんだよ」
『『お兄さんは?』』
「食べたくない」
『『それはダメ。』』
だから命令してくんなっつの………やっぱ、殺しちゃおうかなあ。
前方を歩いていた姉弟が、振り向いた。
『『お兄さん、ハヤシライス食べよっ!!』』
「_______乗った。」

まぁいっか、殺すのはまた今度でも。
新キャラです。近々キャラ紹介作らないとですね。

2010/10/20:ソヨゴ
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