「和弘」
「ん? 何?」
「何でそんなに平常心なの?」
御影がどぎまぎした様子で聞いてきた。僕は答える。
「むしろ、何でそんなに緊張してるの。」
「だ、だって。」
デートなんて初めてじゃないの。
おやおや、顔が真っ赤だ。 「意外。御影こういうの慣れてると思ったのに。」
「好きな人が出来たこと自体初めてなのよ。……和弘は慣れてるの?」
ヤキモチ?尋ねる。 ち、違うけど。御影は答える。
「へぇー」
「な、何その目」
「いや、御影はかわいいなぁと思って。」
だから、 御影は口を尖らせる。 どうしてそんな言葉、はずかしげもなく言えるのよ。
「だって事実だろ」
「ほらまたぁ」
フイ。御影は僕から目を逸らした。そのスキに、御影の姿を上から下まで観察する。私服は初めて見た。もちろんむちゃくちゃかわいいです。
茶のタータンのジャンパースカート、ワインレッドのレギンス。深緑のカーディガンに金色のペンダント。 へぇ、森ガールだったんだ。
「こういうのギャップ萌えって言うのかな」
「何か言った?」
「なーんにも」
さて、僕らはその時、自分達を観察するとある視線に気付いてなかった。


「ねー虎、もうやめない?」
「何言ってんだよ今さら」
「だって、覗きみたいじゃん」
いや覗きだから、コレ。 虎はけろっと返す。
「お前気になんねーのかよ。あの二人がデートしてんだぜデート」
「気になるけどぉ、こういうのはあんまり見たりしない方が、」
「面白そうじゃねーか、見なきゃ損だって損」
「そういう問題じゃなくて!!」
おい、大声出すなよ。 怒られた。慌てて口を押さえつつ、僕は横目で虎を見上げる。
珍しく学ランじゃない。まぁ、遊園地で学ランはちょっと目立つよね。けど……パーカーにジーパン、それだけって。ラフすぎない?
「服選ぶの面倒くさい、って……マジだったんだ……」
「は?」
「いや、別に。」
適当にお茶を濁しておく。ほっぺたつねられそうだったから。
「俺もう帰りたいんだけど……」
「はぁ?一人で尾行してんのバカみたいだろ。お前もいろよ。」
あと誰か居ないと、独り身の寂しさが身に染みそうだ。
ったく、あのバカップルめ。虎は吐き捨てるように言った。
「虎だったらさぁ、作ろうと思えば彼女なんていくらでも作れるじゃん」
虎、モテるんだからさ。妬みも込めて呟くと、アホか、と虎は顔をしかめた。
「好きでもねぇヤツと付き合って何になんだよ。」
「そうだけど……」
好きな人、かぁ。俺も恋とかしてみたいなあ。
「あ、アイツら動いた!!追うぞ」
「えっ? あ、うん。」
そそくさと店の影から出て行く。 まあでもこのまま帰っても、兄さんいないし、別にいいか____
「おい。そこに居るの、悠じゃないのか?」
大好きな声が不意に、耳に届いた。振り返ってみれば、目に映ったのは予想通りの人物。
「兄さん!! 一人で何してんの?」
「いや、ミサワと来たんだがな……」
いつの間にやらはぐれてしまって。兄さんの言葉にちょっとだけ、気分を損ねる。
「へぇ、二人で。へぇー。」
「? どうした、悠。何だか不服そうだが。」
「別にぃ。」
相変わらず仲良いですよねー。頬を膨らませると、兄さんは少しムッとしたように返してきた。
「お前こそ、虎くんと一緒じゃないか。」
似たようなものだろ、と兄さんは言った。
「俺は虎に無理矢理連れてこられただけだもん!」
「俺だって半ば強制的にだ!」
お前気付いたら出掛けてんだもん。兄さんは不機嫌そうに言った。
「せっかくの休日だし、お前と遊びに行こうかと思っていたのに」
「えっだったら早く言ってよ!!そしたら虎の誘いなんて断ったのに!!」
うわぁ。虎が引いた様子で言うのが聞こえた。気持ち悪っ。
好きに言ってればいいよ。俺は兄さんが大好きなの!!こればっかりはどうしようもない。
「何だか面倒になってしまったな、ミサワ探すの。」
兄さんは独り言のように言って、俺の頭に手を置いた。
「一緒にいてもいいか?悠。」
「もちろんだよ!! っていうかさ、虎。」
「何?」
虎が引きっぱなしで答えた。特に構わず俺は言う。
「俺兄さんと一緒に行ってもいい?」
「あーもういいよさっさと行けよ……柳さん、俺ミサワさんの事探して伝えときます。」
すまないな、ありがとう。兄さんが優しく微笑む。俺は兄さんの手を取って駆け出した。


「………何だあのブラコン兄弟、引く。」
「だよなー」
「うわああああ!!!」
突然振ってきた声に少なからず驚く。見上げると、異常に目立つ金髪が目に映った。
「よっ虎くん。振られちゃったねー俺達。」
「っていうか……もう関わりたくないです、あの人達。」
んー、まぁなー。あそこまで行くと気持ち悪いよな!
ははっ、と軽く笑って、ミサワさんは俺の肩に手を回した。
「虎くん、これからどうせヒマだろー?」
「___まぁ、あのバカップルも見失っちゃいましたしね。でも、」
今、気付いたんですけど。俺は控えめに呟いた。男二人で遊園地って、ちょっと色々とマズくないですか。
「? 何が?」
「いや何がって……あぁ、気付いてたら柳さん誘ったりしないか。」
「ちょっとどういう意味、教えてよ」
「嫌です面倒なんで」
ちぇっつれないなー。ミサワさんは僕を引き寄せつつ、言う。
「顔、近いんですけど」
「いーじゃないですか細かい事は」
「よくねぇよ。」
腕で押し戻し軽く離れる。どうも苦手だよこの人。
「相変わらず薄っぺらいですよね」
「えっ存在が?」
「そう存在が」
「マジかよ」
そこは否定しようぜ。ミサワさんの言葉を切り捨てる。いや事実ですからね。
「おうっ辛辣ぅ。 まーでも虎くんって、結構優しい子だよなー」
「は? 何ですかいきなり」
「だってさ、あの二人のためっしょ?俺の事探しとくっていう、あれ。」 「そうですけど……」
「ぶつぶつ言ってはいるけど、何だかんだ俺に付き合ってくれちゃってるし。虎くんいい子だよなぁ」
いい子いい子。楽しそうに笑いながら、ミサワさんはまた肩を組んだ。ちょっと気恥ずかしい。けど、
「ミサワさんに言われてもなあ、ありがたみねぇんだよな」
「ねぇ俺の扱いなんなの」


「もうすぐ、日、暮れるね」
「本当」
あっという間。御影がぽつり、呟く。
「うん、あっという間だった。」
「えと、その、ありがとう。すごく楽しかったわ。」
そう?良かった。僕は無表情のまま返す。
「僕もすっごく楽しかったよ」
御影とこんな風に恋人らしい事すんの、初めてだから。ぶっちゃけ僕も緊張していた。というより、どきどき、してた。御影もそうだったのだろうか。
す、と手を伸ばし、御影の手を取る。御影はきょとんとした顔で、僕を見る。
「あのさぁ、御影。」
今日僕の家、誰もいないんだけど。
何気なく、言う。心臓がうるさい。うっさい、鎮まれ、静まって。聞こえてしまう気がするんだ。
「………行っても、いい、かしら。」
ぎゅ。御影の手の力が、強くなる。御影の脈拍が伝わってきた。気付く。僕と同じリズムだ。
「____泊まっていきなよ。」
服とかは、貸すから。唇が自然に動く。 御影は小さく、うなずいた。

go round

日常編の始まりがこんなんでいいのでしょうかね。

2010/11/18:ソヨゴ
inserted by FC2 system