「アナタ、いつも屋上に居るのね。」
冷たい風に吹かれながら本を読んでいたボクに向かって、彼女はそう声をかけた。
「そうだね。何か悪い?」
刺々しい声を出したボクに対し、彼女はいたずらっぽく笑う。
「ふふ、悪いだなんて言ってないよ?____似てるかなって、思っただけ。」
似てる?
出会ったばかりのボクと、キミが?

空に恋して。

「やっほー。」
「……やっほー。今日も来たんだ。」
あれから数ヶ月経った。彼女もボクも、毎日変わらず屋上ココに来る。
この寂しい屋上に。
「よくもまぁ、飽きもしないで。」
「お互い様でしょ? ねぇ、何読んでるの?」
「キミが知る必要ないだろ。」
素っ気なく返す。もう、冷たいなぁ。彼女は笑った。
何とはなしに、頬が熱くなるのを感じる。彼女が笑っているのを見ると、なぜだか頬が熱くなる。
いや、そうじゃないな。
笑顔だけじゃ、ないな。
「ねぇ、アナタ屋上ココが好きなの?」
「え?あ、あぁ。まぁね。」
一人が好きだから。付け加えると、彼女は目を丸くした。
「あら。じゃあワタシ来ない方がいいかな?」
「えっ、い、いや。居てもいいけど?」
慌てて取り繕う。本当は、一人が好きなんじゃなくて、ただ。
「そう?じゃあ、いてもいいかな。」
良かった。彼女は微笑んだ。
「あのね、ワタシはね、屋上ココが好きなの。」
へぇ。相槌を打つと、彼女は空を仰いで手を伸ばした。触れようと、するかのように。
屋上ココに来ればね、近づけるでしょ?____空に。」
「? 空?」
「そう、空。」
彼女は切なげに目を細めた。どきりとする。
彼女のこんな表情は、一度も見た事がなかったから。
「だってね、空はこんなに遠いでしょ?こんなに高いところに居ても、まだ、届かない。こんなに綺麗なのに、こんなに優しいのに………触れられない。」
指が、求めるかのようになめらかに、動いた。
「少しでも近付きたいの。そばに居たいの。こんなに大きくて、美しい、独りぼっちの空に。触れてみたいのよ。」
彼女は泣き出しそうに見えた。その痛々しい、けれど澄んだ瞳の意味に、気がつかないほど野暮じゃない。
ボクは空を仰ぎ見た。ボクみたいなちっぽけな存在とは比べるまでもない。広大で、美しい。ボクには、勝てっこなかった。
風が頬に吹き付ける。秋風は冷たくて、でもそこか優しくて。
せめて、とボクは願った。 ボクの大好きなキミの、その手が。













いつか、空に届きますように。

短編です。続きは多分ない。
たまには爽やかなお話を書こうと思いまして。空って本当に、綺麗。

2010/11/17:ソヨゴ
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