二重の意味でなー。 「……ふう。」
 冷水が心地いい。疎ましい汗が流れていく。この時期ですら冷水でシャワーを浴びる俺をみな口々に異常だと言うが、好きなんだから仕様がない。第一、雪山の任務よかマシだ。
 すうっ。 筋肉が冷えていく。熱が、奪われていく。心地いい。
「___ん?」
 妙な物音に気がついて、俺はドアの方向を向いた。磨りガラスが邪魔して何も見えない。気のせい、だろうか?いや違う、誰か来た。そして隠す気もないこの侵入はおそらく、
「くっらみぃーーー!!」
「ジャワー中に入ってくんなああああああ!!!!」

お邪魔します。

 ドアを開けた彼の顔面を上段蹴りで蹴り飛ばす。そのまま勢いよく扉を閉めれば彼の不満が聞こえてきた。
「顔面はねぇよ顔面は!!色男になんて事すんの、」
「自分で言うヤツ初めて見た。 お前タイミング考えろよ相変わらず空気読めねぇな、あと遠慮ってモンはねぇのか?」
「遠慮ぉ?俺らの仲にそんな今さら、」
「仲良くなった覚えはねぇ。」
 ひっでーえなぁ。拗ねたような声。とりあえずシャワーを止めて、俺は戸を少しだけ開いた。
「タオル」
「は?」
「タオル取れ。てめぇのせいで出れないんだよ。」
 人使い荒いねぇ。沢霧はぶつぶつ言いつつ、棚からタオルを取り出した。それをそのまま俺に手渡す。
「サンキュ」
 受け取ってまた戸を閉めた。腰に巻いて外に出る。
「ったくてめーは……おらそこ退け、フェイスタオル取るから。」
「頭拭く用?」
「だったらなんだよ?」
 座り込んでいる彼を爪先で軽くつついた。フェイスタオルを引っ張り出して荒っぽく頭を拭けば、髪痛むぜと適当な言葉。
「そういうことは女に言ってろ。」
「いやぁいつものクセでね、悪い悪い。」
 悪びれもせず、へへへと笑う。沢霧はあぐらをかくと、膝の上で頬杖をついた。
「にしてもお前さぁ、きれーな身体してるよなぁ」
「………」
「そのウジ虫を見るような目やめて、そういう意味じゃないからホント。」
 じゃあ、どういう意味だよ。苦虫を噛み潰しつつ問う。 沢霧は、少し真面目な顔をした。
「刺青とかないじゃん、お前。ピアスもしてない。 軍人なのに珍しーよな。」
 なるほど、な。
 そういう本人は、見える場所にも見えない箇所にも刺青が彫られてる。腕、脇腹、背中、首、顔にも少し。ピアスも耳に、じゃらじゃらと。
「蔵未って、弁護士目指してたんだっけ?そんな真面目な青年が、刺青なんか彫るワケないか。」
「まぁな。だって痛そうだし。」
 何気ない返し。なのに突然沢霧は、大口開けて笑い出した。 俺は普通に困惑する。
「何がそんなに可笑しいんだよ?」
「だはっ、だって、だはははっ、はっ、くら、蔵未が、いた、いたそ、とか、ウケる、マジウケる、痛そうって、ウケ、」
「____うっぜ。」
 お前何しにきたんだよ。タンクトップに手を伸ばす。チャコールグレーに染められたそれに腕を通すと、しょうもない返事が返ってきた。
「んーいや、タバコ切れちゃって。」
「……もらいに来ただけ?」
「そ!!」
 にかっと笑う沢霧の鳩尾を狙い蹴りを入れる。喚く彼を置き去りにしてリビングに向かい、煙草を取った。投げ捨てる。
 クソ野郎、てめぇにやる煙草なんかねぇよ。

沢霧大佐。蔵未の同僚です。まぁいい友達。

2011/02/07:ソヨゴ
inserted by FC2 system