女子隊員の大群の中を、俺と大佐はやっと抜け出すことができた。羽虫みてぇに群がりやがってあいつら、邪魔だっつーの!!大佐のご迷惑考えろよな。
「は、あ……疲れた………」
「ですね……あの、何かごめんなさい大佐。」
「ん?何でお前が謝るんだよ。付き合わせてんのは俺の方だろ?」
「いえあの、あいつら同僚なので……」
 大佐のファンは階級問わずたくさんいるけど、やっぱり下士官が一番多い。 さっき馬鹿みたいに騒いでいたのはもちろん同じ下士官達で、くっそ恥ずかしい、一人一人回し蹴りしたい。
「お前が謝る必要はねぇよ。ありがとな。」
 相変わらず生真面目だなぁ。ははっ、と大佐は苦笑して。 カッコいいなぁと思いつつ、俺は大佐を気遣ってみる。
「その、大丈夫ですか?服とか破けてませんかね?」
「どうだろうな……まぁ大丈夫だろう、大したことねぇよ。 ただ疲れたけど。」
 ですよね。言ってため息。あいつらのせいでくっそぉムカツク、なんで迷惑とか考えられないのかな、好きなのは分かるけどもっとさぁ、好きならさぁ、考えろよとか思ったりさぁ。
 大佐はぐるりと首を回した。目立つのはやはり首筋の筋肉、それから肩にかけての流れ。あの惚れ惚れするほどに残虐な動きはやはり鍛錬から来るもので。俺も、精進しないとなぁ。いつか大佐みたいになりたいと思うこともあるけれど、それが到底無理なことぐらい俺にはようく分かっていて、だからせめて、隣に立ちたい。いつかは助けられるだけじゃなく、たまには助けられるような、そんな……やっぱ無理かなぁ………
「にしても…何で俺なのかね。」
「へ?」
「あぁいや、さっきの女子達。」
 もちろん、好いてくれるのは嬉しいけど。 そう言って大佐は首を傾げた。 何で俺がいいのかね、関わったこともないってのに。
「それはだって、大佐はカッコいいですし優しいですし、」
「はは、ありがとう。」
 結局顔か、と大佐は笑う。そんな大した顔じゃねぇけど。 色々と反論したかったのだが。少し考えて、やめにする。
 代わりに、
「大佐っ!」
 立ち止まり、彼の両手を包むように握った。そのまましっかり目を見据えると、大佐はいくらか動転していて。ぱち、ぱち。大きなまばたき。
 え?あ、うん。いきなり何だよ。戸惑いの視えるその言葉を押し返すように熱を込める。
「俺は、大佐のこと本気で慕ってますから!!」
 一緒にしてほしくない。あんなアイドルに狂ってるのと同じ感覚で騒ぐヤツらと、一緒にしてほしくなかった。俺は純粋に慕ってて、憧れてて、貴方みたいな人になりたいと本当に本気で思ってて、だからあんなやつらとは……一緒にされたくなかったんだ。
 大佐の表情を見てみれば、思いっきりきょとんとしていた。そりゃそうだ、後輩がいきなり自分の手を掴んできて俺は本気でしたってますなんて、言われても困るよな____ってそうだよ困るじゃん!!
「あっあのすっすみません!!何か反応に困るようなことを、」
「い、いや…えっと……」
 ぱちっ、ぱち。もう二回だけまばたきをして、それからぼそりと大佐は呟く。
「あ、___ありがとな。」
 見れば大佐の頬はほんのり赤くなってて。俺はぼんやりと思い出す。蔵未は照れやすいんだぜと、沢霧大佐が言っていたのを。
 ところで、いつまで握ってるんだ? 戸惑いまじりにそう問われてて、俺は焦って手を放す。
「な、何かごめんなさい本当、」
「あ、いや、謝ることじゃねぇよ。」
 そろそろ准将んとこ行くか。照れくさそうに頭を掻くと、そのまま大佐は歩き出した。心なしかいつもより速い。慌てて後を追いかけつつ、俺の心は晴れ晴れとしていた。
 ざまぁみろ、羽虫ども。

俺が一番好きなのに!! っていうあれ。一種の嫉妬?

2011/02/10:ソヨゴ
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