「四組の悪ガキコンビがまた何かやらかしたらしいな。」
 屋上。高校生が二人。制服に身を包んだ二人は地面に弁当を広げていた。柳はレモンティーのパックをくいくいと飲みながら、麗一のいる真横へ目を向ける。ストローを口から放した。
「えっまた?」
「らしいぞ。詳細は不明だが。」
 呆れたように小さなため息。その吐息からは、今までにかけられてきた迷惑から来る苦労が滲み出ていた。柳はふぅんと相槌を打つと、またレモンティーを口に運んで。俯いた彼を見て麗一は、何やら企みのある笑みを浮かべた。
「……なぁ、柳。」
「ん?」
 ストローは以前銜えたまま。ちゅるちゅるとレモンティーを飲む彼の耳元で、麗一はわざと低めに囁いた。
「四組の真日って、お前の恋人なんだろう?」
 瞬間、柳は紅茶を吹き出した。どうやら気管に入ったようでそのままごほごほ咳き込み始める。背を丸めて苦しむ彼を楽しそうに眺めながら、麗一は白米を口に運んだ。ようやく落ち着いてきた柳は、涙目で麗一を睨む。
「こっ、の………いきなりなに言って、」
「お前は一応友達だからな。そういうことは知っておかないと。」
「くっそ、からかうんじゃねぇよ……」
 いつになく荒れた口調で柳は憎らしげに呟いた。あぁもう、汚れちゃった。 そう言って口元を拭おうとする彼に、麗一はさらに声をかけて。
「おい柳、こっち向け。」
「何だよまだ何かあっ、____!?」
 言われた通り横を向いた柳はその瞬間に固まった。麗一は気にも止めずに柳の口元をするりと舐めて。そのまま、舌を差し入れる。
「ん、……っふ、ぅ、……ん………」
 顎を支えられたまま、柳は黙って舌を受け入れた。唾液が口元を伝って落ちる。絡められた感触と温度で身体が熱くなっていく。息が、上がる。ついていけない舌の動きにただただ翻弄されてしまう。時々漏れてくる声がまるで女のように聞こえて、柳は無性に悔しくなった。とはいえ、対抗しようだなんて、無駄だってことは分かっていたけど。
 始まりと同じで唐突に唇は離れた。唾液の線が繋ぐように伸びて、そのまま銀にきらめいて落ちる。すっと親指が滑らかに動いて、口元の唾液を拭う。 レモンティーの味がするなと麗一はからかって笑った。
「当たり、前、だろ……さっきまで飲んでたんだから。」
「まぁ、それもそうだな。」
 何のつもりだよ、バカ。麗一の手から逃れて柳は小さく悪態をつく。といっても、その声は緩み切っていて、何の覇気もなかった訳だが。そのせいか麗一は柳の言葉を簡単に無視した。何でもないようにフォークを取り果物に突き刺していく。好物なのか、林檎ばかりだった。
「あれ……うさぎさん切り?」
「ん?あぁ……遥がさ。」
「ハルカ?あぁ、お兄さんか。」
 納得したように柳は頷く。と、_____彼もまた、何か思いついたようで。
「そういえば麗一は、お兄さんのことが大好きだよな。」
「はぁ?そんな訳ないだろう、あんな口うるさい兄なんて。」
 顔をしかめて麗一は呟く、その目が離れた一瞬をついて、柳は林檎を奪い取った。
「、あ」
「そうか、お兄さんのこと別に好きではないんだな?だったら俺が貰ってもいいだろ。」
 にっ、とからかうような笑み。麗一は憎々しげに、返せとだけ一言応える。 やーなこった、呟くと、柳は林檎を一つ手に取った。
「どうしても返してほしい?」
「何馬鹿なこと言ってるんだ、そもそもお前のものじゃないぞ。」
「知ってるよ。……そうだな、じゃあ。」
 シャリ、音を立てて一口。林檎の欠片を齧り取る。そのまま舌の先端に載せてべーっと舌を見せつけた。つんつんと指で舌先をつつく。 取りにこいよ、と言わんばかりに。
「____ったく。」
 ふざけた真似しやがって。諦めるようにため息をついて、麗一は柳を押し倒す。上から押さえつけるように舌先をかすめ取って、そのまま林檎を口に含んだ。噛み砕きながら舌を絡める。甘さと酸味の洪水にそのまま溺れるようにして。あくまで、友達、それ以上じゃない。一線は越えないまま境界線で崩れよう。それなら彼には、バレやしないさ。
 口移しで閉じ込める。外には漏れない、ここだけの秘密。

なんか なんでこうなった。

2011/03/27:ソヨゴ
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