ごめん、ごめんな、柳。 何度も何度も、俺の肩口で、美澤はそんなことを言った。あぐらをかいていた俺は抱きつかれたまま体勢を崩し、右腕を床につく。左腕を折り畳み、彼の金髪を撫でながら、……俺は小さくため息をついた。
 軽薄。淡白。彼はそんな言葉が似合う男だ。明るいけど薄っぺらくて、まるで重さを感じさせない。いつでもいい加減、かなりだらしがない。常にふざけているせいかあまり気付かれていないけど、実は冷たい人なんだと思う。当たり障り無く表面だけ。それで、済ましてしまう人。そんな人だからこそ俺は嬉しかったりするんだが……俺にだけ、重い執着を見せてくれるから。
「いきなりどうした。」
「何でもない、けど……ごめん。本当ごめんな、柳。」
 抱きつく腕が強くなった。淡白な彼はほんの時たま、感情が昂ってどうにもならなくなることがある。そんな時の彼は恐ろしかったり、__愛おしかったりで__俺は必ず振り回される。仕様がない、惚れたが負けだ。
「何故謝る? 俺は何もされていないよ」
「……ごめん」
「だから、」
「愛したりして、ごめん。」
 は?
 思わず、間の抜けた返事。何を言いだすのかと思えば。
「分かってる、分かってんだよ……愛してる、誰より愛してるよ、他の言葉とか見つかんねぇけど、愛してる、心の底から、自慢して回りてぇくらい、こいつが俺の恋人だってさ、だけどさ、だけど、同時に、__誰にも見せたくねぇんだよ。」
 あぁ。
 なんだ、そんなことか。
「我侭だよな、分かってる、ごめん、愛してるのに、何でかな、どうしようもなく愛してんのにな、傷付けてばっかだ、ごめん、なぁ閉じ込めたいんだよ、誰にも触れてほしくないんだ、俺だけ見ててほしいよ、俺だけ……ごめん、いつも傷付けてごめん」
 服が濡れていくのを感じて、あぁ泣いてるなぁなんて思った。こいつが泣くの久々だな、……珍しいこともあるもんだ。
 そりゃ俺は今までに何度も美澤に傷付けられてきたし、ぼろぼろになったことも、ずたずたになったことも、ぐちゃぐちゃになったこともあったよ。あったけど、でもそんなこと些末なことに過ぎないんだよ。お前は俺を愛してるんだろ。……俺と、同じように。
 なぁ美澤、くだらないよ。 くだらないよ、そんな懺悔は。
「__今さら何を言ってるんだか。」
 俺はあやすような手を止めて、代わりに美澤を抱きしめ返した。ほんの少し顔を上げた彼の目は、あえて見ない。俺は瞼をすっと閉じる。
「俺にはもうとっくのとうに、お前しかいないんだから。触れてくれるのも、触れてほしいのも、もうお前だけなんだよ。愛してくれて、ありがとう。捕まえてくれてありがとう。お前にだったら囚われていいよ。……きっともう、囚われてるから。」
 お前に俺しか居ないんだったら、それは俺だって同じこと。傷付けられても、突き落とされても、俺はお前から離れられない。何があっても離れたくないよ、なぁ、愛してる、愛してるのはお前だけだから。
「お前の傍にいられるんならどんな形だっていい。閉じ込めてくれて構わないんだ。お前だけ見てられて、お前だけ傍にいてくれるなら、これ以上のことなんてないよ。……ただ一つだけ欲を言うなら。」
「……何?」
「永遠に。__閉じ込めていて、ほしいんだ。」
 いつか捨てられるんじゃないかと思い始めればキリがない。世界そのものに嫌われたんだ、見捨てられた、お前は神様に好かれてるだろう、世界に愛されてる、だから、__世界を切り捨ててまで俺を愛してくれたのは嬉しい、けれど、お前は捨てようと思えばいつだって俺のことなんか捨てられるんだ。だから、怖くてたまらない。いくら好きだと言われても愛してると囁かれても、いやだからこそ、怖くなる。恐怖は拭えないままだ。想像しようとした瞬間に全ての思考が遮断される。隣に、美澤がいないなんて。
 お前のモノでいたいよ、美澤。
「……ありがとう」
 愛してる。 最後に一言、しつこいくらいの言葉を添えて。 ごめん、お前だけは逃がしたくない。
「__だから、逃げる気なんてないんだ。」



俺だってできることなら、お前を閉じ込めたいんだから。

同じ同じ。
ミサ柳の関係性はよく分かる話だけどこれ本当微妙だねおい。まぁ息抜き以下というか、ウォーミングアップ的な意味合いで捉えてください。
2011/05/01:ソヨゴ
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